シーン11彼女の横顔

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シーン11彼女の横顔

かおる子はそもそもあまり感情を表さない。 それは、悲しい、嬉しい、恥ずかしい、 ありとあらゆる感情を表さない。 表す、というのは 言葉で伝える、表現することに加えて、 表情に出さないこともそうであるし、 電話やメールをしつこくかけたり送ったりする、 ということも含む。 僕が電話をかけて、 彼女が出なくて… その時間、いったい何をしているのか。 僕は悶々と考え続けてしまう。 会っていない時、いったい彼女は何をしているんだろう。 そう思って、悶々と考えたあげく 電話をかけて、相手が出ない。 そして、更に悶々するという負のスパイラル。 彼女はかけてくること自体がないのだから、 そんなスパイラルすら経験したことがないのだろうなあ、と 思っていた。 彼女が、それでもごくたまにメールや 電話をくれて、(大抵が業務連絡だ) このメールに返信を返さずにいたら、 彼女もじれったくなって、さらに電話をかけたりしてくるだろうか、 なんて 考えて放置してみる。 すると、何の追加連絡もなく、 こっちが逆に悶々としてしまう。 いつも前を見ている彼女の横顔を、 僕は一生懸命、見逃さないように 見つめてきたのだ。 どんな感情の変化も見逃さないぞ、と。 こっちを見てくれない彼女の横顔を そっと撮影したこの彼女の横顔を 映し出した携帯の待ち受け画面を、僕はじっと見つめた。 カシャッというシャッター音を聞いて、 彼女はゆっくりと、振り向いたんだ。 いつもこの写メを見ながら、僕はゆっくり振り向く彼女を 想像するんだ。
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