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シーン12 いつもの小さな公園で
僕がかおる子に会いたい時。
彼女に申し出て、それが受け入れられた場合、
いつも彼女が指定する小さな公園がある。
彼女の家の近くの、小さな公園。
彼女は実家暮らしで、
大学のある街からは片道一時間以上はかかる。
けれど、彼女に少しでも会えるなら
僕は喜んでそこまで行く。
彼女の住む街に入る頃から、街並みが少し変わる。
高級住宅地であるという先入観もあるが、
彼女が育った街、ということに僕の胸が高鳴る。
少し散歩をした時に、彼女が通った小学校は見せてもらった。
山手にある、その小学校からは
街が見下ろせて、その先の海まで見えた。
彼女が住んでいる、というだけで通ったこの街に来るのは、今日が最後になるのかもしれない…。
意を決して公園に入ると、
かおる子はブランコを漕いでいた。
座っているのではない。
漕いでいる。
それも立ち漕ぎで勢いよく。
小さな公園には、ブランコとベンチしかない。
いつもは、かおる子はベンチの横あたりに、
ただ立っている。
何をするでもなく、まっすぐ。
僕に気がついたかおる子は、足を下ろして
ズザザザーと交通事故のような音を鳴らし
ブランコを止めた。
呆気にとられて動けない僕。
彼女の顔に浮かんだのは
笑顔だった。
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