シーン13 彼女の笑顔

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シーン13 彼女の笑顔

彼女は見たこともないような、笑顔をこちらに 向けている。 僕は混乱するばかりで、 謝罪の言葉を色々と考えていたにも関わらず、 その笑顔に思わず顔がほころびそうになる。 幻か。 ついに幻が見えたか。 あの滅多に笑わないかおる子が、ブランコをこぎ、 笑顔をこちらに向けている。 その笑顔はいつものはにかむような薄い、はかなくすぐ 消えてしまうような笑顔ではなく、 満面の笑顔だ。 真夏に太陽に向かってまっすぐ咲いている向日葵のような 自信と愛情に満ち溢れている。 幻か。 「俊平くん?」 気が付くと、すぐ目の前でかおる子が小首をかしげている。 白昼夢を見ていたのか。 「っわわわ。」 なんとも間抜けな声が出て、僕は一歩後ろに下がる。 すると、彼女がそっと抱き着いてきた。 信じられないようなその行動に、僕の頭は文字どおり真っ白になった。 しかし、彼女の手が背中にそっと回る感触は、 現実感を伴って感じられる。 そのことがまた、僕から現実を遠ざける。 「会いたかった。」 僕の胸に顔を埋めて、彼女がそっと小さな声で言った。
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