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シーン4 桜の木の下の彼女
かおる子がベンチに座って本を読んでいる。
皮の鞄を横に置いて、
姿勢を伸ばし、
首を少し掲げて、
小さな綺麗な手に文庫本を収め、
熱心に読んでいる。
頭上の桜の木が彼女に影を落とし、
花びらが時折落ちてくる。
そんな姿を見て、
僕の目には不覚にも涙が出そうになる。
自分が彼女との別れを考えていて、
もうすぐ彼女を手離すことになるかもしれない
恐怖に怯えて。
そんなに好きなら、別れなければいいと
自分でも思う。
ドラマみたいにどうしても別れなければいけない
家の事情があるわけでも、
引き離されるような状況にあるわけでもない。
ただただ、自分に自信がないのだ。
彼女に好かれている、という自信が持てない。
春の陽光の中、
花びらがまたヒラリと彼女の前に落ち、
ふと、顔を上げる。
そして、ゆっくりと僕の方へ顔を向ける。
やはり、彼女の表情は変わらない。
僕はうっすらと笑う。
泣きそうになるのを堪えながら。
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