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シーン9 居酒屋を出たら②
最悪だ。
僕の後ろで、すぐるが頭に手をやる。
「俊平、今日バイト入ったんじゃなかったの。
ここで何してんの。」
そう口にしたのはハナエだ。
そうだ。僕のバイトは大学近くの飲食店で、
本当ならこの時間にここにいるはずがない。
当のかおる子の表情は…ハナエの影になって、
よく見えない。
浮気現場を目撃されて、糾弾されているような、
万引きが見つかって、途方に暮れているような、
どちらも経験がないから分からないけれど、
全身から血の気がひき、
冷や汗が背中を伝う感覚、
立っている感覚はすでになく、
自分がどこにいるか分からない、
焦りだけが心の中を駆け巡っていく。
「飲んでたの?」
答えない僕に向かって、さらにハナエが
言い募る。
けれど耳に入ってくるようで、
入ってこない。
終わった。
その言葉が頭の中で拡声器を使って叫んでいるみたいにワンワンと響いていた。
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