ラジオ(前半)

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時刻はAM2:58。 机の一番下の引き出しから ラジオを取り出す。 今までは机上に置いていたのだが、 母に見つかると何かと厄介なのだ。 もうすぐ僕の楽しみにしている 番組が始まる。 「はい、皆さんこんばんは。 "ウェイパストミッドナイト"の 時間がやって参りました。」 軽快なオープニングソングに続いて、 ラジオパーソナリティ白峯久美子の声が 聞こえてきた。 今日も英語の発音がやけにいい。 彼女の喋りは抑揚が心地よく、 身体をすり抜けていくような 透明感を持ちながらも、 確実にそこを通った形跡が残る、 そんな存在感のある声を持っている。 さすがプロだ。 「今夜も受験生や夜勤の皆様が 聞いてくれていますかね、お疲れ様です。」 僕もその受験生である。 とはいえ浪人の身だが。 3カ月程前、眠気覚まし用につけたラジオで この番組に出会い、 今では日課になりつつある。 僕は英語の単語帳をめくりはじめた。 暗記はリラックスしている時と 寝る前にやるのが良い、と どこかの東大生が言っていた。 「それでは、皆様からのお便りを読んで...」 その時、突然バンッという 重い扉が勢いよく開かれたような 大きな音が流れた。 僕は思わず手を止め、ラジオの方を向く。 「動くな。リスナー含め通報したら こいつを殺す。」 男の鈍い声が聞こえた。 演出なのか、事件なのか、 次の瞬間にはっきりとした。 「ひっ。」 カチッという音の後に 白峯久美子が息を呑んだことも 高性能マイクはしっかりと拾い上げた。 おそらく男にナイフの刃先か銃口を 向けられているのだろう。 これはホンモノの事件だ。
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