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ハルにとって最後の事件となったのは、三年前の連続強盗殺人事件だった。
被害者全員に逮捕歴があったことや、捜査が常に後手になり情報の漏洩疑惑もあったことから、内部犯の疑いも密かに囁かれつつあった。
勿論ハルも全力で捜査に当たったが、捜査中に踏み込んだ空き家で爆発が起こり、被疑者二名とも死亡、うち一名はハルの相棒の刑事という悲惨な結末を迎えた。
当時相棒として行動を共にしていた五つ年上の先輩――夏木カイトという男は、咥え煙草と無精髭が妙に似合う、マイペースな一匹狼だった。
皮肉屋なところもあり、配属されたばかりのハルは「お嬢ちゃん」と呼ばれていた。小柄で女顔だからって舐めんなよと腹が立ち、それがかえってハルの闘志に火を点けた。
カイトはハルと同じく高卒で交番勤務から実績を重ねた叩き上げの刑事で、鋭い直感と現場百遍根性を合わせ持つやり手だった。
性格以外は尊敬できる――そんな相手をぎゃふんと言わせたくて、新人刑事ハルは死に物狂いでカイトを追いかけまわし、やがて肩を並べて走れるようになった。
生来面倒見の良い気質のハルと気まぐれなカイト。
第一印象は「お嬢ちゃん」「性格以外は尊敬」と散々だったものの、相性自体は悪くなかったように思う。互いに刑事という仕事を何より愛しているという共通意識のもとで徐々に関係も改善され、二人の捜査の腕も相乗効果で上がっていった。
相棒を失った今のハルには、弱者のために身を削り、真実を追い求めたあの頃のような情熱はないけれど――。
ハルは爆発で事件に関する記憶の一部を失い、事件後すぐに警察を辞めた。
依願退職という結果に不満はなかった。
辞職前、相棒の事件への加担に気付かなかったことに対する叱責がやんわりと上層部から通達されたが、それがなくてもカイトの死によるショックで何も考えられなくなっていたのだ。
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