Last case

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「うわぁ、本物のロボだ。この前のアパレル女社長の事件でも少し見たけど、本当に完ぺきな顔してんなぁ」  病院の一室で、ハルの元同僚の橘刑事がまじまじとロイドを眺めている。 「……変なあだ名で呼ぶのはやめてください。それに今日退院しますし、ハルさんがいますので、お見舞いにも来ていただかなくて結構なのですが」  ハルさんが、の部分を強調して突き離すも、橘は意に介した様子もなく興味津々の様子で絡み続ける。 「だってさぁ、T大首席卒、国家公務員一種首席合格、警察大学校首席卒の超キャリア組が佐倉の知り合いだったんだぜ? 舐めまわすように観察したくもなるだろ」 「そうだぞ、ロイド。思ったより怪我も軽くて火傷と足首の骨折だけの二泊三日の入院だったのに、旨い差し入れ持って来てくれたんだから感謝しろよ」  見舞い品のクッキーを頬張りながら言うハルに、ロイドは大きく溜息をこぼす。 「その差し入れはすべてハルさんのお腹に消えていますけどね。大体なんなんです、ロボって」 「そりゃあ非の打ち所のない成績を修めて二十四歳にして警察庁警備局の公安警察になったうえに、長身ソフトマッチョでCGみたいな顔してるんだ、完璧すぎて人間とは思えないだろ。佐倉は辞めた後だから知らなかったかもしれないが、ロボの入庁は色んな部署で噂になってたし、ロボとかアンドロイドとかサイボーグとか、果てはエイリアンとまで呼ばれてたぞ」  ロイドは超人的なまでに文武両道な、ただの人間だった。それは怪我の治療後すぐに本人の口からハルに伝えられた。  十五年前に交番巡査と少年という姿で出会っていたことを思い出していたハルはさほど混乱しなかったが、彼の経歴には目を瞠った。 「まさか、佐倉の復職のためにあの事件を調査してたなんてなぁ」  しみじみと頷く橘に、ロイドは眉間の皴を深める。 「貴方たちが、ハルさんが『相棒の犯罪加担に気付かなかったことを叱責されて警察をクビになった』などと話していたのが悪いんです」 「それは後から上層部がそう言ってるのを聞いたから……事件当初は俺もカイトさんの無実を訴えるのに必死で佐倉のことを気にかけてやれなかったし、精神的に参って自発的に辞めてたなんて知らなかったんだよ。何もしてやれなくてごめんな、佐倉」  誰にも本音を言わずにひっそりと退職した自分も悪いのに、目の前で潔く頭を下げられて慌てて首を振る。 「いや、言わなかった俺も悪いし、みんなが頑張ってたのに俺だけ逃げる形になって、俺の方こそごめんな」  カイトの死から目を逸らすために警察に背を向け、逃げたことを素直に詫びる。 「そもそも、なんで警察庁の超エリート様が佐倉の復職のためにそんなに動いてたんだ? 佐倉は確かに仕事熱心ないい刑事だったけど、公安が動くほど飛びぬけて優秀ってわけじゃなかったし、そもそも公安ってそういう機関じゃないだろうし……」 「ハルさんについて調べていたのは、私の独断です。わたしは、ハルさんの傍に置いてもらうために警察になったので」  当然のことのように言ったロイドに、ハルと橘は固まる。 「……いや、なにも公安のキャリアにまで上り詰めなくても……。俺、昔も必ず自己紹介してたはずなんだけどな。名前と一緒に『交番勤務』って」 「はい、きっとそう言ってくれていたんだと思いますが、当時の私のリスニング能力に問題があり、ずっと『公安勤務』だと思っていまして……。もしかしなくても交番の制服を身に着けていたのでしょうけど、生憎ハルさんの愛らしい顔の記憶しかありませんでしたし。話の流れからなんとなく警察関係だということは分かったので、当時十二歳で素直過ぎた私は、あの日帰ってから公安警察になるための勉強を始めてしまって」  うっかり警察庁の公安に入ってしまいました、と残念そうに言うロイドを、見舞い人二人は残念なものを見る目で見つめた。 「配属された警備企画課のどこを探してもハルさんはおらず、警視庁もしくは地方にいるのではと調べた結果、捜査一課の刑事になっていたことが判明しましたが、すでに退職されていると知り絶望しました。怪我や病気で退職したのならハルさんを支えなければと思い退職理由を探っていると、三年前の爆発事件に関係あると分かり、その事件についての調査を始めました」 「なんだろう、人生をかけた壮大なストーカーがいる……」  やや顔を引き攣らせるハルの肩に手を置いた橘は、「接触禁止命令が必要になったら言えよ」と憐れみを込めて言う。 「しかし、三年前の真犯人が雪村警視正だったのには驚いたな。カイトさんの容疑が晴れたのは純粋に嬉しいけど、今まで憧れて信頼してた人があんなことをっていうのは、複雑だよ」  悲しげに笑った橘に、ハルは同調するように頷いた。
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