Last case

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 退院したロイドと二人、自宅に戻る。  脱ぎ着のしやすいジャージを身に纏ったロイドの姿は珍しく、車の中でも何度も見つめてしまった。  ラフな格好なのにこんなに絵になるなんてずるい。アンドロイドだと紹介されたときは驚いたが、どちらかというと人間からこの美しすぎる男が生まれたことの方が信じがたいかもしれない。  松葉杖をついて四階まで階段を昇ったロイドに、労わりの意味も込めてコーヒーを入れてやる。マグカップを二つ持ってリビングの広いソファに腰を下ろすと、碧い瞳でまっすぐに見つめられる。  ああ、この吸い込まれるような瞳が好きだ……。  美しい碧に魅入っていると、ふっと柔らかな笑みを浮かべたロイドが囁くように話す。 「改めて自己紹介をさせてください。名前はチャールズ・ロイド、年齢二十七歳、父がイギリス人ですが国籍は日本、前職は警察庁警備局警備企画課、趣味は暗記、苦手なものは料理、好きな季節は春、好きなものはハルさん」  まるで愛の言葉を紡ぐようなトーンで自己紹介され、ハルの顔はじわじわと紅潮していく。 「探偵事務所に入社早々入院となり、なにかとご迷惑をおかけしてしまいましたが、これからも助手として……いえ、それだけでなく出来れば恋人としても、貴方の傍に置いていただけないでしょうか」  赤面したまま膝の上で握った手を、少し冷たくて大きな手で包まれる。 「……給料、あんまり良くないぞ。浮気調査や迷い猫探しみたいな依頼ばっかりで、公安みたいなやりがいのある仕事も少ない」  照れくささを紛らわすようにぶっきらぼうに述べてみるが、甘い視線からは逃れられないと悟り、ハルは覚悟を決める。 「個人事務所だし、ボーナスも大して出せないし、福利厚生は……俺、とかだけど」 「十分です、貴方が居れば、他の物はすべて些末なものです」  背骨が軋むほど抱きしめられて、肩口にぐりぐりと頭を擦り付けられる。揺れる金髪がくすぐったくて、大きな犬にじゃれつかれたみたいだ。  よしよし、と背中を撫でると、顔を上げたロイドが好物を見つけたように唇に噛みついた。 「ちょ、待てって、コーヒー淹れたのに」 「すみません、でもこっちの方が美味しいです」  貪るように口内を舐めまわされ、唇が腫れるほど食まれる。気付くとひんやりとした手が服の中に侵入し、胸の突起を掠めた。 「うっ、まだ昼間だし、ここじゃ……部屋、明るいからっ」  恥ずかしい、と呟くやいなや、ロイドの勢いは火に油を注いだように増した。容赦なくハルのカットソーを剥ぎ取り、性急に赤い突起に舌を這わせる。 「話、聞けよ……!」 「聞いてます。恥ずかしがるハルさん、可愛いです」  ダメだ、聞こえてるけど通じてない……と頭を抱える。  片手で爪を立ててかりかりと擽られる一方で、ちゅうちゅうと吸ったり歯を立てられて、ハルの中心は嫌でも反応してしまう。 「そんなとこ弄ってもっ、楽しく、ないだろ、ひゃぅ」  がりっと噛まれて、変な声が出る。痛いのに、下着にじわりと先走りが滲んだのを感じて、もじもじと膝を擦り合わせる。 「楽しいです。こうして歯を立てるたび、びくびくして、こんなに赤くなって……ここも」  つうっと下腹部を撫でられて腰が逃げる。上気した顔で精一杯睨みつけてやったが、ロイドは嬉しそうにハルのベルトを外し始めた。 「お、おい、ちょっと」  慌てて制止しようとしても遅く、ずるりと下着ごと引き抜かれる。明るい照明の下で自分だけが全裸になっている状況に、かあっと顔が熱くなる。  咄嗟に閉じようとした膝を掴まれてそのまま開脚するように広げられてしまう。相手の目の前に自分の勃ち上がったものが曝け出されている状態に、とてもじゃないが耐えられない。 「うわ、何、やめろって」  羞恥心が限界に達して脚をばたつかせると、膝のあいだから困ったような顔のロイドが覗いた。 「ハルさん、あまり暴れると骨に響きます。いい子ですから、大人しくしていてください」  ギプスを嵌めたロイドの脚が視界に入り、思わず「ごめん」と謝ってしまったが、この体勢を諦めてくれればいいことなのではないか?  言い返そうと口を開くと同時に蜜をこぼして快楽に震える自身を喉の奥に咥え込まれ、「あぁんっ」と大きく喘いでしまう。 「……ハルさんは、口淫されるのが好き、と」  違う、俺を変態みたいにインプットするな! と博士に紹介されてすぐの頃を思い出すが、無駄に気合の入ってしまったロイドの巧みな舌遣いに、抗議の意思は言葉にならない。  じゅぶじゅぶと音を立てて上下するロイドの頭を掴むのが精一杯で、その金糸に縋りつくように指を絡めると、先端をちゅうっと吸われて呆気なく果てた。 「はぁっ、も、やめろって言ったのに……」  乱れた息のまま、口に発射してしまったそれを出してもらおうとテーブルのティッシュを取ろうしたが、すぐにごくりと喉を鳴らして飲み下す音を聞いて飛び起きる。 「お、おま、おまえ、ののの、飲んで」 「ハルさん、バグですか?」  おかしそうに言いながら口の端の残滓を拭う男っぽい表情に、口をはくはくとさせたまま固まるしかなかった。 「ハルさん、可愛かったです」  頭をぽんぽんと優しく撫でながら慈しむような顔で見つめられ、ハルは赤くなって俯く。  視線を落とすと、服越しにもその怒張を感じるほどに勃起したロイドの欲望が目に入りぎょっとする。 「お前、それどうするんだよ」 「ああ、これは自分で処理しておくので大丈夫です」  明日までに報告書を仕上げておきます、みたいな口調で言っているが、ロイドだって人間である以上つらいに決まっている。 「その、なんだ、俺だってお前のこと好きだし、そういう関係にもなりたいって思ってるし、いいんだぞ……俺のこと抱いたって」  自分としては最大限に誘惑したつもりだったが、ロイドは困ったように苦笑いを返す。 「そうしたいのは山々なのですが……潤滑剤の準備もしていませんし、私の脚もまだ治っていないですし」  俺が、ここまで言っても、先に進まないのか!   さっきまでガンガンに攻めてきたくせに突然発揮されたポンコツぶりに、ハルの我慢は限界に達した。 「ごちゃごちゃうるせえな! キッチンにサラダ油でもマヨネーズでもなんでもあるだろ! 脚が完治してないのなんて見れば分かるわ! だから俺が上に乗ってやるって言ってんだよ、このポンコツ!」  ぽかんとフリーズしたロイドをソファに放置し、全裸のままでどすどす歩いてキッチンに向かう。サラダ油とオリーブオイルとごま油とマヨネーズ、どれがいいだろうか。オリーブオイルだともこみちが頭を過るし、ごま油だと途中でお腹空きそうだし、マヨネーズって俺はサラダか、と悩んでいるうちに冷静になり、自分の尻に塗る油を吟味している状況のシュールさに気付く。 「……サラダ油でいっか」  そそくさとボトルを手に取り、ロイドの元へ戻る。ようやくフリーズの解けたロイドは「無理してませんか……?」と不安げに瞳を覗きこんでくる。 「男に二言はない! 大体、こんな状態で何言ってるんだよ」  男に抱かれたことなどないので怖くないと言えば嘘になるが、それ以上にこの愛しい年下の男と繋がりたいという気持ちの方が強い。その証拠に、ロイドのジャージをずらして現れた屹立を目にすると、自分の喉がごくりと鳴るのが分かった。  すぐにでもそれに触れたいのを我慢し、オイルを自分の後孔に塗りつける。指を一本入れてみたが、あまりの気持ち悪さにすぐに引っ込めてしまう。 「うぅ……」  いきなり挫けそうになるが、心配そうにこちらを見ていたロイドの瞳の中に欲望の色が灯ったことに気付き、もう一度中指を挿入する。 「ふっ、うぁ」  少しずつ襞を柔らかくするように押し、第二関節まで挿入するもそれより先に進めずにいると、腕を引かれてロイドの膝を跨ぐように座らされる。 「え、なに……やぁっ」  前からぎゅっと抱きしめられてときめいているうちに、するりと双丘のあいだに長い指を差し込まれる。ふにふにと蕾の感触を楽しむようにつついたかと思うと、ゆっくりと内部に侵入を始めた。  あのしなやかな指が自分の排泄器官に入っていて、先に中に入っていた自分の指に甘えるように擦り寄っているという現実に気を失いそうになる。  ロイドの指がまた一本増え、内部でばらばらに動かされる。窄まりを拡げるようになぞられて、違和感に震えていた唇が次第に甘い息を吐き出し始めた。 「も、大丈夫、だからっ」  気が遠くなるような愛撫ですっかり性感帯に変わってしまった排泄器官はとっくに快楽の許容量をオーバーしていて、もっと強い刺激を欲している。 「……無理はしないでくださいね」  しおらしい台詞とは裏腹にロイドの声は掠れた雄のものになっており、ハルが張りつめたそれに手を添えて腰を落としていくにつれ、何かを堪えるように眉間に皴が寄っていく。身体を支えるために手を置いていた腹筋もぴくぴくと痙攣していて愛おしい。  アンドロイドだと言われて信じてしまったくらい作り物めいた完ぺきな男が自分の痴態に興奮しているのだと思うと、ひどく可愛く見えた。 「入った……ロイド、好き。大好き。俺を見つけてくれて、傍に居てくれてありがとう」  額に、瞼に、頬に、唇に、いくつもキスを降らせて、ハルは何度も愛を伝えた。おっかなびっくりだったハルの動きは徐々に熱のこもったものへと変わり、下から突き上げるロイドも額に汗を浮かべてハルの華奢な身体を穿つ。 「ハルさん、ハルさん……っ、愛しています、私と出会ってくれて、私を変えてくれて、愛してくれて、ありがとう――」  溶け合うほどに唇を合わせ、二人同時に果てた。荒い息のままロイドの胸に寄りかかる。トクトクと鼓動の音が聞こえる。  ああ、幸せだ――  顔を上げてロイドを見つめると、蕩けそうな碧い眼差しと視線が絡み合った。 「……ベッド、行くか」  もう一回くらいならしてもいいぞ、と目で伝えて自室に向かうと、後ろから期待に満ちた空気を隠しもせずにロイドがひょこひょこと片足で付いてくる。  あいつでも浮かれたりするんだな、と笑いそうになるのを堪えてベッドに座って彼を待つ。  射貫くように碧い瞳をぎらつかせてベッドに乗り上げたロイドに、再び激しいキスをしながら押し倒されて、枕の上に頭を乗せる。  その瞬間、部屋の照明がピンク色に変わり、ムーディな音楽が部屋中に流れた。
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