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5/23 おかゆ
おかゆが健康食だと理解しているのに、食べるたび、体が蝕まれていくような気がする。
『陽太へ 今日の夕飯も適当に買って食べてください』
父は知らない。俺が料理をしていることを。
思えば半年ほど父に会っていない。食事をどうしているのかも分からない。仕事のときは外で済ますだろうし、休日は外食かテイクアウトか、片手で収まりきるかどうか危うい、俺の母親になるかもしれない女のとこに行ったりしてるんだろう。
高校生になってから、毎日置かれる「適当に買ってね金」が1000円札から10,000円札に変わった。10倍になったけど、俺の食欲が10倍になったわけじゃない。だから、高い食材を使った料理を自分で作るようになった。
鍋がぐつぐつと鳴っている。おたまでかき回すと、カニの匂いがふわりとキッチンに広がっていった。
『ひな、お風邪だいじょうぶか?』
一番よく作る料理はおかゆだ。まだ小さかったころ、よく体調を崩していた俺に、「父さん」が作ってくれた。
湯気を吸って、そのままため息に変える。
ネットで取り寄せた高いカニとか、フカヒレとか、希少な部位の肉とか。米と調味料と一緒に全部ぶち込んでぐつぐつ煮る。何もかも面倒なとき、よく作る料理。
『服とか本とか、もっと有意義に金を使ったらどうだ?』
耳の奥で父の声がするけど、これは俺の拙い妄想で、幻聴だ。無駄を極めようが金はあるし、何をしようが父は俺に興味がない。そうわかっているつもりなのに。
粥を食べるたび、もう二度と聞けない父の心配そうな声を思い出す。
あの頃よりもずっとずっと金をかけた粥。行き場のない感情に蝕まれながら、俺は今日も飯を食べる。
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