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5/29 からあげ
田島くんが瞬間移動の能力を手に入れた。
「田島やべえ!」
「すげ、俺も連れてって」
「私が先に予約してたのにぃ。ね、田島くん!」
同じクラスの田島くんは、世にも珍しい瞬間移動の能力者になった。昨日、日曜のスーパーの朝市に行ってるときに、はぐれた妹を探していたら能力が開花したらしい。
「気づいたら華が、あ、俺の妹が目の前にいたんだ。びっくりした。だって自分が能力者だって夢にも思わなかったし」
能力者って町に1人か2人しかいないけど、まさか同じクラスに出るとは思わなかった。田島くん。教室で本をよく読む田島くん。文化祭の看板づくりでよく喋った田島くん。
「リミ?」
「……あ、ごめん。ちょっと気持ち悪い、かも」
「え、なにちょっと! 保健室行く?」
「おい、香川へいきか?」
「へーきへーき」
高校では皆勤賞を狙っていたけど、みんなにかこまれている田島くんを見たら、そんなもののどこに価値があるのか分からなくなった。
そのまま早退した私は、ただ駅にむかって、音もなく歩いていた。退屈な住宅街の中にある高校だ。いつもなら音楽プレーヤーに身を任せて歩いているけど、もうそんな気になれない。
道端の石ころをひろって、ぎゅっと握りしめる。少しして、何の変哲もない石はからあげになった。
『香川さんが塗ったとこ、すごい綺麗。びっくりするくらい器用だね』
無機物をなんでも食べ物に変えられる能力。クラスの誰にも言っていない。中学では完全に便利屋扱いされて、好きでもない奴らのものをケーキやらなにやらに変えさせられた。それが嫌で、誰も知らない遠い高校を選んだはずなのに。
あの日、一緒におばけやしきの看板を作った田島くん。能力以外なんの価値もない石ころみたいな女を、私を褒めてくれた田島くん。
今更手に汗をかいている。田島くんの素敵なところがみんなに知られちゃう。瞬間移動したみたいにパッパッパって、急速に広まっていく。
『隣のクラスでからあげ売るんだって。いいな、からあげって食べ物の中で一番うまいよね』
田島くん、もっと早く言っておけばよかったです。私は能力だけを見て人間を見ない、そこらの有象無象とは違うって。近くもなかったくせに、あなたが離れたような気がしました。
『香川さん』
あなたのためならどんな物だって、からあげにできるのに。
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