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5/30 スムージー
『当社の商品であります【乳酸菌野菜ドリンク】の販売を終了いたします」
常々思うのだけれど、いなくなることが分かってから報告するのはやめてほしい。誰もいないリビングに、ため息が広がった。
この野菜ジュースも、2人の子供たちと一緒に楽しんだパズルゲームのアプリも、離婚した旦那も。終わるかもって勘付いてるくせに、どうして終わる前に言ってくれなかったのかしら。
[お母さん、野菜ジュース!]
[販売終了とか悲しすぎ~]
メッセージとともに、うさぎが泣いているスタンプが娘の亜紀から送られてきた。そうね、悲しいというよりかは、細胞が戸惑っている感じがするわ。お母さんの細胞は、このジュースでできているから。
この十数年、あの野菜ジュースと生きてきた。夫の浮気による離婚から体を壊しスーパーのパートをやめた。部屋にこもりがちになった私に、健康のためにと当時社会人になったばかりだった息子の隆司が、箱で買ってきた。
[このスムージー美味しくておすすめなんだけど、いかが?]
亜紀からまたメッセージが来る。スムージー。
[効果はどうなの?]
そう送ってすぐに、[あんま分かんないけど味はうまい!]と返ってきた。思わず口を押さえて、小さく吹き出した。
旦那がいなくなって、野菜ジュースが支えとなって、今度はジュースが消えた。私は何かに支えられてしか生きられない。情けないけど。
[今度お兄ちゃんと都合合わせて、届けに行くね〜]
情けないけど、幸せかもしれない。
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