剣帝学院の無剣騎士

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 その時の俺は、ただ泣き続けることしかできなかった。かつて暮らしていた村は跡形もなく消え去り、目に写るのは焼け焦げた石材の残骸と、無残に積まれた死体の山だけ。友達と通った教会も、いつもパンを買っていたおばさんの店も、家族と暮らした家さえも、もう残ってはいない。母譲りの黒髪を煤で汚し、涙で顔を濡らしながら、俺は焼け野原で一人、その場にうずくまっていた。 「坊主、お前が泣く理由は何だ。心配しなくても、村を襲った山賊どもは俺がもう捕らえたぞ」  側に来た壮年の騎士が、そっと剣を鞘に納めながら尋ねてくる。俺は嗚咽をこらえながら、一つ一つ言葉を紡ぐように答えた。 「怖、くて……泣いているんじゃ、無いんです……。誰、も……守れ、なかった……自分、が……悔しいんで、す……」 ようやく最後まで言い終えたと思えば、また涙が溢れ出していた。泣きじゃくる俺の頭に、ゴツゴツとした騎士の手が、優しく置かれる。 「坊主、他人を守れなかったことを嘆き、自分の無力さを嘆くことができるお前は、優しい心の持ち主だ。そして、鉄にも負けぬ強さも持っている。お前はいつか、必ず誰かを守れるくらい、強くなる。だから、今くらいは泣いたっていい。泣いた分だけ、強くなればいいのさ」 その言葉を聞き、俺は抑えていた感情が溢れた。大声を上げて泣き叫ぶ俺の頭を、騎士はいつまでも撫で続けてくれていた。
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