眼鏡をかけたら世界が変わった話

2/2
521人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
 眼鏡。それは、目に見える世界を大きく変える魔法のようなものだと思う。ぼんやりとして曖昧だった世界が、眼鏡をかけた途端にハッキリと輪郭を持ちクリアになるような感覚。  1週間程前、視力の低下に伴って眼鏡デビューをした俺は、この感覚に驚くと同時に高揚感を感じた。目を凝らす必要もなくハッキリと見える黒板の文字に感動したり、遠くから声をかけてくる人の顔を識別出来るようになったり。  眼鏡とは本当に良いものだ。自分の見える世界を変える、自分の見える世界を良くしてくれる魔法の道具。  ……そう思っていた時期が、俺にもありました。 「嫁兼(よめがね) 翔琉(かける)先輩、貴方のことが大好きです、俺と付き合ってください!!!」  俺を空き教室に呼び出し、そう言って告白してきたのは、全く話したことのない、どこのクラスに属しているのかもよく分からない奴だった。上靴の色と俺のことを先輩と呼ぶということから、こいつは1年生なのだろうと検討はつくが、本当にそれ以外については全く知らない奴。  見覚えもなく、名前すら知らない目の前の後輩の告白を断りながら、「ここのところ1週間で告白されたのは10回目だな…」等と考え、思わず泣きそうになった。  眼鏡をかけてから、俺の世界は変わった。ぼやけて見えていた世界に輪郭が生まれ、ありとあらゆるものがクリアに見えるようになった。  そして、色恋沙汰に関係のないところで平々凡々と生きていたはずの俺は、何故か…何故かモテるようになった。  現在は5月中旬、水曜日の朝8時10分。窓の外の青空が綺麗だが、俺の心は後悔の嵐で荒れていた。  どうして中3の頃の俺は共学の高校を受験しなかったのだろう…。もしもそうしていれば俺は今頃女の子に告白されて、初めての彼女も出来て、学校生活ももっと楽しかったかも知れないのに。  しかしながら、ここは男子校。詰まるところ、この高校には()()()()()()。  故に、目の前にいる後輩も男。そして、今までにされた告白も、全て男からのものなのである。  ……ノンケの俺は、そろそろ泣いても良いのではないだろうか…。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!