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「…この俺を目の前にしてそこまで反抗的なことを言う奴は珍しいな…」
織沢は低い声でそう言って、俺に値踏みをするような視線を投げた。そして、目が合った瞬間、何故か一瞬驚いたような顔をした。しかし、それは一瞬のことで、次の瞬間には取り繕うように顔から表情を消した。
「何だ、一体。」
「…いや…ところで、貴様…名前と組は?」
"貴様"…?何だその呼び方は…。
織沢がどれ程の人間かは知らないが、そのような呼ばれ方をするいわれは無いだろう。
「…1年6組、大和タケル。」
そう名乗ると、今度は真鎖が驚いたように俺の方を見た。まあ、当たり前だろう。学年も組も名前も全部嘘なのだから。
しかし、織沢はそれをすっかり信じているらしく、「1年6組大和タケル…覚えておいてやろう」などと言って、踵を返した。織沢の取り巻きは慌ててそれについて行く。
「織沢さん、お席は…」
「今日は、いつもと違う場所で食べる。」
「いつものお席が埋まっているという理由でしたら、何としても退かせますが」
「ただの気分だ。気にすることはない。」
そのような会話をしながら、織沢の集団は離れて行き、最終的には此処より1番遠い席についていった。もはや向こうの会話の声はもう聞こえないし、おそらく俺たちの会話の声ももう向こうには届かないだろう。
「…っはあ…嫁兼くん、ありがとう…」
真鎖は安心したようにそう言って、ポケットからハンカチを取り出し、額を拭った。まるで真鎖の周りだけが真夏になっていたみたいに、大粒の汗をかいていた。
「大丈夫か?さっき、すごく緊張していたようだが…」
「うん……迷惑かけてごめん…俺がちゃんと対応出来ていたら…」
「別に真鎖のことを迷惑だとは思っていない。迷惑をかけたのは真鎖じゃなくてあの織沢とかいう奴だろ。」
「でも…」
汗を拭い終えた真鎖は、心配そうな目で俺を見た。
「でも何だ。何か良くないことでもあるのか?」
「良くないことっていうか…俺のせいで、あの織沢くんに逆らって本当に良かったのかなって。」
「織沢…そう言えば、織沢って一体どんな奴なんだ?なんだか周囲の人間に異常に持ち上げられているようだが」
「え、嫁兼くん、織沢くんのこと知らないの?!」
真鎖は信じられないとでも言いたげな表情をした。
「嫁兼くん、織沢ホールディングスって聞いたことない?」
「ああ…確か、戦後以前の有名な財閥が前身となっている会社だよな。…ん?織沢…?」
「そうだよ。織沢くんはその織沢ホールディングスの御曹司、織沢 雅崇。つまり、大金持ちだよ。」
「はあ!?何でそんな奴が、こんな公立高校に…?もっと良い私立の学校とかあるだろ…」
「それは分かんないんけど……織沢くん、裏でやらかしたアレコレをお金で揉み消したりしているっていう噂も聞くし…俺のせいでそんな人に逆らったりして、本当に嫁兼くん大丈夫だった?」
真鎖は非常に申し訳なさそうにそう言った。
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