球技大会の話

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「サボるんなら1人でサボれ!俺を巻き込むな、下せ!」 「わわっ、ちょっと暴れないでよー、落とされて尻餅ついたりしたくないでしょ?」  そう言われると、抵抗は出来ない。ただでさえ右足を捻っているのに、これ以上何処かを怪我するだなんて、絶対に御免だ。  しかし、それにしたって、サボるのはよくないし、何より…何よりも、この抱えられ方は恥ずかしい!!  姫抱きとか、少女漫画とかでよくあるやつじゃないか!!それを現実で、しかも俺がされる側だとか…恥ずかしい以外の何物でもないだろ…なんの罰ゲームなんだよ、これ…  本当に、この状況、どうにかならないのか…?  そう思い、周りを見回すと、数メートル先にいる真鎖と目が合った。  これは丁度良い。助けてくれ、という思いを込めて真鎖を見る。しかし、真鎖はしばらくこちらをジッと見つめた後、あろうことか満面の笑みを浮かべ、親指を立てた。  真鎖、この野郎…!!  その口が「メシウマ」という形に動くのを見て、俺は絶望した。あの腐男子は、俺を助ける気が全く無さそうだ。  ならばと、他の誰かに助けを呼ぶことも考えたが、やはりやめた。  この抱えられ方をされているのは、あまり多くの奴らに見られたくない。極力誰にも見られたくないのだ。だから、言えない。  この状況、どうしようもなさそうだ…。  気分がどん底に沈む。そして沈んだまま、俺の体は土屋によって運ばれ始めた。土屋は鼻歌でも歌い出しそうな程ご機嫌の様子である。  保健室でサボろうという言葉の通り、そこを目指して土屋は校舎の中へと入っていくのだが、その際、すれ違う人々から好奇の眼差しを向けられる。  そりゃあそうだ。男子高校生が男子高校生にお姫様抱っこをされている様子を見れば、何があったのかと誰もが疑問に思うだろう。  俺だって、もしも当事者ではなく、ただすれ違っただけなのだとしたら、同じように疑問に思ったはずだ。  が、しかし、それにしても恥ずかしい。何故俺はこんな抱えられ方をしているのだろうか。  人とすれ違うたびに、恥ずかしさが高まり、消えてしまいたいような気持ちになる。  いっそ早く保健室に着いてくれ。そして、俺を早く地面に下ろしてくれ。  そう思っていると、上の方から「はい、下ろすよー」という声が降ってくる。前を見てみると、保健室。  宣言通り、土屋はゆっくりと俺を立たせた。  ただいま、地面…。  心の中で呟いた。  そしてその後、土屋は俺の右手を取り握った。  って、何してんだこの野郎!!  驚いて手を引っ込めれば、土屋は苦笑いをうかべた。  そして、指で俺の足を指し示して言う。 「その足、歩きにくいでしょ?いーよ、俺に捕まって。」  その言葉に、俺は目を見開く。もしかしてこいつ、俺が足を捻ったことに気付いていたのか…?
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