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「あっ、先輩!こんにちは!」
眼良は俺の姿を見つけると、花が開いたみたいに笑って、こちらの方へ近づいて来る。
後ろにいた真鎖は何処かソワソワしたような様子で、それについて来た。
「眼良、どうした?何か用か?」
真鎖はさっき試合で一緒だったから、俺の元を訪ねてきても、まあ不思議ではないのだが、眼良とは今日はまだ会ったことがないはずだ。
しかし、その眼良が、真鎖と一緒にここに来るだなんて、一体どうしたのだろうか。
「さっきの試合、実は後半だけ見ていたので、嫁兼先輩がお姫様抱っこで運ばれていくのも見ていたんです。それで、気になって…目撃情報を頼りにここまで来ちゃいました。」
俺の質問に対し、眼良はそう答えた。
そして次に、不安そうに眉を寄せる。
「…もしかして、ご迷惑でしたか?」
「いやいや、こんなことはないぞ…!ただ理由が気になっただけだから」
慌てて俺がそう言えば、眼良は安心したように笑った。
しかし、次の瞬間には何故かまた悲しそうな表情を浮かべてしまった。
「先輩…その足、雅崇お兄様とぶつかった時に?」
眼良は俺の足首を見ながら言った。
なるほど、氷嚢の乗せられた足首を見たから、俺が怪我をしたことを悟ったのか…。だから、眼良はそんな表情をしているのだな。
「まあな…だが、歩こうと思えば歩けるし、多分大したことはないと思……ん?」
俺が話している途中、視界の隅でゆらりと何かが動き出す。
その何か、に目を向ければ、そこにあったのは眼良の手。
眼良の手は、ゆっくりと動き、そして、段々とこちらに近づいて来ている。
「眼良?」
1度呼びかけてみるが、眼良は何処か虚な目をしていて、何の応答もなかった。
そして眼良の手は、更に近づいて来て、そのまま軽く俺の額に乗せられた。
え、何だ…?一体、何なんだ?
どうしたのかと思い、再度「眼良」と呼びかけるが、反応がない。
そこで、額の上にある眼良の手を軽く突いてみる。
「あ、うわっ…」
眼良は、そこでやっとハッとしたような表情をして、慌てて手を引っ込めた。
そして、少し驚いたような、不思議そうな顔をして、自分のその手を見つめている。
「眼良…どうしたんだ?」
俺が聞くと、眼良は目を泳がせた。
「いっ、いえ!な、何でもないんです…」
…いやいや、その表情、その話し方、「何でもない」奴のものではないだろう…。
「本当に、何でもないのか?」
俺が聞くと、眼良はまた動揺したように目を泳がせ、決して俺と目を合わせようとしなかった。
「ほ…本当に、多分何でもないんですよ…!
ただ、先程の転倒でお兄様の口と先輩の額がぶつかっていたのを思い出して…ええと、痛くないのか心配になって…!!
本当の本当に何でもないので…あの、嫁兼先輩のこと、お姫様抱っこしても良いですか!?」
「……え?」
「え……?…あぁっ!まって、違う、僕いま何を言って…!?」
眼良は、自分自身に困惑しているような様子でそう言った。
そして、頬や耳を一気に赤く染める。
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