球技大会の話

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「眼良、どうしたんだ?」 「……。」 「いやあの、めらちー?痛いよ…!?」  眼良は、俺の手に絡められた土屋の指を1本1本剥がしていった。  それも、俺の質問や土屋の訴えに応えることなく、ただただ本当に、黙々と。  そして、土屋の指の最後の1本が離れて行った時、眼良は俺の手のひらをギュッと握って離し、満足そうに笑った。 「……眼良、今度はどうしたんだ?」 「モヤッとしたので。でも、原因は取り除けたので、今は大丈夫です!」  眼良はそう言ってキラキラと笑った。  そして次に、視線を落として小さく呟く。 「嫁兼先輩、結構鈍そうだから、我慢したり隠したりしなくても、きっと大丈夫だよね…?」  自分に問いかけるように言ったその呟きは、恐らくはただの独り言で、俺に聞かせるつもりは無かったのだろう。しかし、近くにいた俺の耳には、ギリギリ聞き取れてしまった。  鈍い…。眼良までそんなことを言うのか…眼良まで…  しかも、直接ではなく、独り言で言われたがために、余計に真実味を帯びて聞こえてしまう。  ……そうか、眼良まで、俺のことを鈍感な奴だと思っていたのだな…。  あまりのショックさに、なんとなく直視出来なくなって、眼良から目を逸らした。  すると、その後ろにいた真鎖と目が合う。  真鎖は…何だか、緊張しているような、でも頬は少し赤いような、不思議な表情をしていた。  多分、緊張の方は、この場にほぼ初対面であろう土屋が居るからだろう。そうでなければ、説明がつかない。しかし、頬は一体… 「真鎖…どうしたんだ?」 「……お、お俺は空気、だから……」 「は?」 「だから、俺のことは、きき気にしないで…3人でイチャついてどうぞっ!!!」 「………はぁ…成る程…。」  勢い良く頭を下げた真鎖に、俺は全てを察した。  あの緊張と期待の入り混じった表情は、見慣れぬ人物への緊張と、BL的な何かへの期待の混ざった結果、出来たものだったのだ。  …なんだ、そんなことだったのか。全くもって通常運転じゃないか…!  心配して損したな。…けど、何事もなくて良かったのか…?  そう思うと、なんだか少し安心したような気持ちになった。  すると、次は真鎖の要件が気になり出す。 「…真鎖は何の用事でここに来たんだ?まさか、それを言うためだけに来たわけじゃないだろう?」 「う、うん……とりあえず、試合結果を伝えようと思って…」  ああ、そうか。  真鎖が校庭ではなく、ここに居ると言うことは、すなわち試合が終了しているということになるんだな。  だから、わざわざ結果を伝えに来てくれたのか。 「どっちが勝ったんだ?」  俺が聞くと、真鎖は緊張の色を少し残しながら笑った。
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