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それにしても、源先生と草枕先生が…
去年、何回も真鎖から力説されたが、やはり想像もつかない。
源先生は筋金入りの文学オタクだし、草枕先生も草枕先生でかなりの古典オタクだ。
草枕先生は、今年は俺達に現文を教えてくださっているが、去年は古典を教えてくださっていて、今でもその授業が忘れられないでいる。
草枕先生は、基本的には敬語口調の柔らかい物腰で、動作がゆったりしていたり、朗らかな表情をしている人だ。特に目元なんかは、糸目と呼ばれる程細められている。
そんな先生だが、古典の授業の時は人が変わるのだ。
一度授業が始まると、草枕先生はアナウンサーもビックリな程いきいきハキハキと快活に喋り出し、キビキビと板書をし始める。
まずこの時点で、同じクラスだった奴らは皆圧倒されていたが、草枕先生の凄いところはそれだけではなかった。
なんと、枕草子を授業で取り扱った時には、普段細めらている目が開眼していたのだ。
開けられた目は、夜明けを思わせるような綺麗な薄紫だったのだが、クラスの奴ら驚きすぎて、その授業があってから3日間くらいは、草枕先生の話ばかりしていたような気がする。
…ちなみに、授業内容は大変分かりやすかった。枕草子が範囲に入っていた定期テストでは、クラスの古典の平均点が、90点近くにまで達した程だ。
文系特進に所属している今年とは違い、去年は文理選択もしていなかったし、クラスの中に国語が苦手な奴も勿論居たはずなのだが、それでも90点近い平均点が出るとは、驚きしかない。
その時、草枕先生は「皆さんが頑張って勉強をしてくださって、私はとても嬉しいです。」などと言って笑っていたが、多分それだけではなかった。
草枕先生が開眼する程好きな枕草子に、クラスの奴らは興味を持って、それ故にしっかりと勉強をしたのだろう。
現に、何人かの生徒は、図書館で枕草子を借りたり、書店で買ったりしていた。
現文を教えてくださっている今では、草枕先生のそんな凄さは見られないのだが、やはり去年の古典の授業は忘れられない。
だからこそ…だからこそ、「草枕先生と源先生はきっと付き合っているんだよ!草枕先生は源先生にグイグイ迫るし、源先生はそんな草枕先生に困惑しながらも、嬉しく思っている!最高!」という真鎖の主張には、首を傾げざるを得ない。
文学大好きな源先生と、古文大好きな草枕先生が付き合っている…?
いやいや、とんでもない。何かの作品について語り合っている2人なら想像出来るが、それが精一杯だ。
というか、文章への情熱が大きすぎるあの2人が恋愛関係にあるとか、普通に考えたくない…!
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