球技大会の話

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「るん…?…かけるんっ?」 「うおっ…」  土屋に足先を突かれて、考えごとに沈んでいた意識が浮上する。 「どーしたの、かけるん。ボーッとしていたけど…」 「いや、なんでもない」 「そーお?……じゃあ、かけるん、グラウンドに戻ろっか」 「えっ?」 「まぐまぐとめらちーの試合、見るんでしょー?」 「あ、ああ…そうだが…」  その言い方、もしや土屋も来るのだろうか?  保健室でサボりたいって言っていたのに? 「かけるんと一緒なら楽しそうなんだもん、俺も一緒に行くよ」  土屋はにっこりと笑ってそう言った。  そしてその後、突然、少し寂しそうな顔をする。 「…ダメ?迷惑かな?」  うぐ、その顔にその台詞…何故かこちらが悪いことをしているような気になるからやめて欲しい…。 「…土屋の好きなようにすれば良いと思う」 「…!わぁい!かけるん、ありがとう!」 「うわっ、なんだよ?!」  土屋は、礼を言いながら、いきなり抱き付いてきた。 「嬉しかったから…」 「そんなことで…って、手を握るな!指を絡めるな!」  男に抱きつかれながら指を絡められても、鳥肌しか立たない。  本当に離れて欲しい 「うわぁ、かけるん鳥肌スゴ…」 「分かっているんなら離れろ!…いやいや、なんで手を握る力を強くするんだよ!?」 「オモシロイから!」  コイツ…!人が嫌がるのを面白がるとか、ドSだな!?  眩いまでに笑ったいる土屋に、腹の底からイラッとくる。  そろそろ手荒なことをしてでも離れてもらおう。  そう思っていた時だった。 「ぇぐ…ちょっと、めらちー、首首!首しまってる!あと、手首痛い」 「嫁兼先輩が嫌がっていますので。」  眼良が、土屋の体操服の首ところと、手首を掴み、俺から引き剥がしてから言った。  その顔はどことなくキリッとしている。  …俺が女子なら惚れていただろうな。  そう思うくらい、眼良の行為は有り難かった。 「嫁兼先輩、行きましょう、グラウンドへ!」 「ああ」 「僕がお運びしますね!」 「ああ、ありがと……えっ、眼良が?」 「はい」  眼良はさも当たり前のことのように頷いた。  いや、しかし、それはちょっと……。  眼良の身体を見ながら思った。  眼良の身体は、俺よりも華奢で線が細い。そんな眼良に俺を運ばせる…?  いやいや、そんなことはさせられない。  というか、そもそも俺は怪我をしているとは言え、一応歩けるし、運んでもらうまでしなくても大丈夫だろう。  それに、仮に歩行が出来なかったとしても、この中のメンツなら、真鎖に頼めば…… 「えっ、俺は嫌だよ?大人しく眼良くんに運んでもらって、可愛い系×平凡の景色を実現させてよ!」 「まだ何も言ってない。あと、眼良と俺をBLにするのもやめろ」 「だって目が合ったし、でも俺腐男子だし!あと、ぶっちゃけ男子高校生1人を運ぶって大変だから嫌だよ!」  いや、潔いな!?確かに、大変だけど…。 「……先輩、僕じゃ心許ないですか…?」  俺と真鎖のやりとりを見ていた眼良は、少し悲しそうな目をしながら言った。
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