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○○
「真鎖……お前、おまえ……」
嫁兼くんの動揺したような声が耳に届いて、ハッとする。
見ると、眼良くんの腕の中で、嫁兼くんは悲しそうな顔をしていた。
もしかして、嫁兼くんを親友だと思えないことで、嫁兼くんを傷付けちゃったかな…?
いや、傷付けたよな…だって、1年以上一緒に居るけど、嫁兼くんのこんな悲しい顔、初めて見るから…。
途端に申し訳なさが込み上げてくる。
嫁兼くんを傷付けるなんて、俺、何やってんだろう。
でも、だけど……親友だなんて…俺なんかが、本当に良いのだろうか…?
嫁兼くんの親友だなんて。
いいや、そんな烏滸がましいこと、俺みたいな奴が思っても良いわけないじゃないか。
だって、昔散々言われたから自覚してるけど、俺ってかなり気持ちが悪い奴だし、何より、この1年間、嫁兼くんの時間を奪っていたんだから…。
この頃、嫁兼くんの周りには人が沢山いるようになった。それに伴って、嫁兼くんの表情はどんどん豊かになっていると思う。
例えば、織沢くんと喧嘩する時のムッとした顔。例えば、狼野くんと話す時の気を許したような笑顔。例えば、後輩として眼良くんを可愛がっている時の、優しい目つき。
嫁兼くんの周りに人が増える度、嫁兼くんってこんな表情をするんだ〜って驚いて、そんでもって、平凡総受けBLとして最高に萌えさせてもらった。
…けれどその度に、この1年間…嫁兼くんと仲良くなったあの時からずっと、俺は嫁兼くんから貰うばかりで何も与えられなかったこと、そして、嫁兼くんがこういう表情をするような機会を奪ってしまっていたことを痛感した。
俺は、高校に入学した時にはもう立派なコミュ障に成長していて、周りにいる同世代の人が皆怖くなっていた。
人間関係をリセットする、そして、BL趣味を隠して、ちゃんと友達を作りたい。
そんな思いで、わざわざ中学の同級生が絶対に入学しないような県外の男子校を選んだ。
でも、やっぱり、誰と仲良くなってもいつかは趣味のことがバレて、気持ち悪がられて、嫌われるんじゃないかっていう思いが消えなくて。
そしたら周りの同級生がみんな怖くなって、誰とも上手く喋れなくなった。
結局、俺は中学の時と何も変われない。ずっと独りぼっちなんだ。
そんな暗い思いで、入学したての数週間を過ごしていた。
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