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プロローグ
◇
最初の記憶は初めて自転車を漕いだ時だった。
父親に連れられてやって来た近所の大きな公園で、補助輪なしの自転車を乗る練習をしていた時。
何故なのか、どうしてなのか。
今でもさっぱりわからない。
ただ全然自転車に乗れるようにならない俺を父が諦めず公園に連れて行き励ましながら練習したとき。
何度も転んで嫌になって、泣いて乗らなくていいと駄々をこねて、それでも結局やった。
その過程で、父の応募を思い出して自分で自分を鼓舞したのが始まり。
その時イメージしたのが自分の思い浮かべる自分を大切にしてくれる人である。
今ではすっかりくっらーいインキャの俺はだが子供の頃は友達が100人できるんじゃないかと思うくらい多くの友人に囲まれながら生きてきた。
少々変わり者だった俺は、人の言っていることがかなりの確率で理解できず、理解しついて行くために自問自答し、どうしてもわからない時は、頑張れできるとまた鼓舞をした。
そうして鼓舞をさせて、わからないことを問いかけて、愚痴を聞かせていた
ただのイメージであった自分の思い浮かべる自分を大切にしてくれる人は、それこそ最初は喋ることはなかったがいつからか夢に出て来て、そのうち頭の中で愚痴を垂れると相槌をし始めた。
小学生を卒業し、中学生にもなると一緒に嫌いな先生の悪口を言い始め、勝手に可愛い女子ランキングなるものを作り、 とても人間らしく成長した。
その頃にはもう一人の人格と言ってはいいほどになっていた。
だが、彼は主導権を握ろうとしたりしなかった。
DVD屋さんでレンタルしてきた人格をテーマにしたパニック映画をみて共に怖いなー……と言っていたレベルであり、ただ興味として、身体の主導権ってどうやって取るの?と俺が彼に聞いたくらいである。
テスト勉強なんかは特に、身体を共有する仲としてお互いの将来のために協力した。受ければ、教科を分担して暗記し、解答を忘れれば目を脳内会議を行った。
両方自分だから、結局は導き出せても自分の限界なんて高が知れているもので大概は間違えていたが、それも二人の笑い話である。
彼から見れば俺が主導権を握って身体を動かしている状況は、友達の家に遊びに行ってゲームしている様子を隣で眺めているのに近いらしい。
ただ退屈じゃないかとか、主導権を握ろうとすると断られる。
人間と話すのが面倒くさい。問題解決ざ面倒くさい。ルールを守るのが面倒くさい。授業を受けるのが面倒くさい。
とにかく何もかも面倒だ。
ということらしい。
◆
俺の名前はメイディス。
二人とも俺だと文面に残した時に分かりづらいという理由で自分につけた名前だ。当時考えうる最もカッコいい名前だからな、ネーミングセンスは察しろ。
俺は一応、別人格というやつになる。
らしいではないのは自分が、最初に生まれた人格ではなく途中から生まれた似て非なる人格だと自覚しているからだ。
性格もかなり違う。最近までずっと俺の本人格が主導権を握って身体を動かしている様子を見てきただけであったからか、それとも愚痴を聞いて育ったからか、少しばかり荒い性格持ちらしい。
ここに関しては自分をあまり客観視できないもので、わからないが、相棒に言わせて見れば、荒い・無関心・冷静くせに自分にはめっちゃ煽ってくる……とか言ってきたなぁ。
俺たちと、分けないで名乗るならば俺の名前は雪代 宮斗。本人格のことは最初は宮斗さんだとか呼んでいたが、むず痒いと言われ自分でも何かさん付けは嫌だと思うようになってからは、よくて相棒。悪くて"おい"だとか"なあ"というくらいだ。
そういえば、俺とのやり取りを題材にした小説を書いているらしい。
何か応募を見て『おっ、これいいじゃん』だとか言い始めるものだから、何をやってんだと聞けば、フィクションとして俺たちの日常を書いてしまおうというらしい。
たしかに悪くない。
ツイッターだとかSNSに多重人格だとか書いているやつはいても俺たちみたいに、平和に仲良くやっている奴らはそうそういないだろう。
これを書くのは賛成だ。
だがな、お前さんよ……課題提出が明日までっていうこと忘れてねぇかい?
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