valkyrie

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馬車に戻るとマルガリータが火を焚いていた。 「あら、おかえりなさい。何か捕まえられた?」 私はスッとうさぎを差し出した。 「ちょっと!やだ、うさぎじゃない! かわいいのにそんなもの食べられないわよ!」 「そんなことを言っていていいのか?腹はすいただろう。 かわいいからと言って食わないわけにはいかない。 私が捌くから少し待っていてくれ。 うさぎを食ったことないのか?」 「あるわけないじゃない!かわいいうさぎちゃんよ? むしろペットにしたいぐらいだもの… でも仕方ないわよね…私グロテスクなものはダメだからあっちでやってね!」 人を使って実験したくせにグロテスクがダメとは何事だ。 筋が通っていない。 私はうさぎの腹を掻っ捌いだ。 内臓は新鮮な内しか食べられないため、今日は内臓を中心に食べよう。 あとは皮を剥いで、干し肉にしておくとするか… 私は慣れた手つきでうさぎを捌いていく。 身体は小さくても腹は減るものだな。 内臓はたぶんグロテスクな物に該当するだろうから、そっと持って行った。 「本当にうさぎを食べるの?」 「当たり前だろう。調理は私がする、少し中で待っていてくれ」 私はマルガリータを馬車の中に残し、外でうさぎの調理をはじめた。 調理と言っても焚火で焼くだけだがな。 焼けたうさぎからはいい匂いがする。 マルガリータが馬車の中から顔を覗かせた。 「なんだかすごくいい匂い…」 「もう焼けたぞ、ほら食え」 そういって私は焼けたうさぎをマルガリータに投げた。 「いただきます…うさぎちゃんごめんね… んっ!おいしい!なんだか鶏肉みたいな味がするわね! これ、もうないの?もう少し食べたいわ!」 「うさぎが嫌だと言っておきながらおいしそうに食ってるじゃないか」 「それとこれとは別よ!おなかがすいていたんだもん、しょうがないじゃない…」 馬にはちゃんと食べられる草を摘んできておいたから心配はない。 ひとまずここで夜を明かすとしよう。 マルガリータが寝たのを確認して、私はそっと馬車の外に出た。 夜は魔物に狙われやすいから気を付けなければいけない。 幸いなことにその夜、私たちを狙う魔物はいなかった。 次の日の朝、馬は無事にぬかるみから出ることができた。 「あー!よかった!本当によかったわ! これで向かえるわね、早速行きましょう!」 順調に行けば今日中にはミルドールに着くことができるだろう。 私は少し安堵し、馬車の中で眠りについた。 「ちょっと、起きて起きて、着いたわよ!」 私はマルガリータに起こされた。 目を開けると見たことのない光景が広がっていた。 「ここがミルドールよ、やっと着いたわ! 薬を買ってくるから、少し馬車の中で待っていてくれる? 他に何か必要な物はある?」 「いや、特に必要な物はない。できるだけ早く買ってきてくれ」 「はーい、わかりましたよぉ」 マルガリータを見送ると、私はそっと外の景色を眺めた。 見たことのない色とりどりの果物や、 おいしそうな魚、それに武器屋だってある。 見て回りたい気持ちがあったが、私はマルガリータの帰りを待った。 「ごめんごめん、遅くなっちゃって!はいこれ薬」 「あぁ、ありがとう。…これ本当に薬だよな?」 小さな小瓶に入った薬を手渡された私は、疑った。 「ちょっと、もう意地悪なことはしないわ!まぁ飲んじゃってよ!」 「そうか、では…」 私は薬を飲み干した。 するとみるみるうちに体のサイズが戻っていく。 だがふとした違和感があった。 服がキツイ… パッと見ると胸が大きくなっていた。 「なっ…これは一体どういうことなんだ?」 「あら、その方がかわいらしくっていいわよ!」 「邪魔だって言ってたのを聞いていなかったのか? 動きにくいじゃないか、どうしてくれるんだ!」 「まぁまぁそんなに怒らないの。女の子っぽくなって素敵よ」 くそ、こいつとはまだ当分付き合っていかなきゃいけないと思うとうんざりする。
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