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パラダイスルーム
合コン会場は、このビルの5階。
コンクリート打ちっぱなしのビル内は、殺伐としている。
エレベーターに乗り込むと、少々薄気味悪い。
こういうテナント募集中のビルは人気がないから、余計にそう感じるのも無理はなかった。
ムードも何もない廊下を歩いて、会場となる部屋の扉を開けると、高級ラウンジのような空間が広がっていた。
「いらっしゃいませ、ようこそ」
蝶ネクタイをつけた店員に先導され、男性だらけの部屋の中を歩く。
刺さる視線が痛い。
しかし、見れば見る程イケメン揃いに見えた。
―― 普通の合コンで、こんなイケメンばかり揃うのだろうか……?
まるでホストクラブようだと思っていると、こちらへお座りくださいと案内された。ソファに腰かけると、両手に花状態である。
周りを見ると、女性は3人しかいない。男女比率もおかしいし、本当に合コン会場なんだろうかと疑いたくなる光景が広がっていた。
「中村さん、こんなに可愛いのに彼氏がいないなんて、周りの男の目は節穴だね」
「そのワンピース、良く似合ってるよ」
女性の数が少ないからか、妙にチヤホヤと構ってくれる。
可愛いだのなんだのと、歯の浮くようなセリフを息を吸うように吐くのだが、お世辞だと分かっていても気分が良かった。
「あっちの女の子とも話をしてくるよ」
「え~。友樹、私ともっと喋ろうよ~」
斜め右のソファに座るグループから一人の男性が立ち上がり、対角線にあるグループへと移動した。
どこか落ち着いた雰囲気のある人だ。身なりも整っていて、スーツが良く似合う。
どこかの商社マンだろうか?
ちょっと喋ってみたいなと思いつつ、目だけが彼を追う。
「友樹さん? 初めまして。彩奈と申します。あんな若いだけの女の相手は、疲れるでしょう?」
移動先に座る女性が、そんな挨拶を彼にしたのが聞こえた。
合コン、こんなえげつない会話が繰り広げられる場所だっただろうか?
その遠慮のない言葉が聞こえたのだろう。
私の目の前で、女同士の火花が散るのが見えた気がした。
「中村さん、そんな熱心に何見てるの? 俺のこと見て欲しいな」
向かいに座る男性がそう言うと、私の隣に座る男性が間髪入れずに身を乗り出す。
「こんな奴、やめとけって。俺の方が絶対幸せにしてやれる自信あるからさ」
その根拠のない自信はどこから湧くんだろう?
そうは思いつつも、今までとにかくモテず、彼氏が一人もできなかった私だから、心臓がドクンと跳ねる。
そんな言葉をかけてもらえるなんて嘘みたいだと、まるでパラダイスに来てしまったかのような錯覚に陥って、浮足立つのだった。
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