キスの日の話(改稿版)

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指先が襞をかき分けていくごとに腰ががくがく震えて、沙保のおなかを打つ。それでも逃がさないと言うように、沙保の足先が私の足に絡んで放さない。  蕾の裏側のあたりをぐいぐいえぐられ、きゅうっと下腹に力がこもる。まぶたの奥で白い風船のように何かが急激に膨らみ、はじけた。  そして気づいたら、私は沙保の上にぐったり寝そべっていた。  まぶたを開くと、すかさずポカポカの手のひらが頬を包み込む。また何かの「キス」が落とされる前に、私は毛布を頭までかぶった。  ふふっと笑う沙保の吐息が、静かな空気を震わせる。毛布のすき間からそっとうかがうと、彼女は切れ長の目を糸のように細めて笑いをこらえていた。 「なんで隠れるの」 「…だってまた何かキスするでしょ」 「だってキスの日だもん」 「…沙保ばっかりむかつく」  もぞもぞと沙保の首もとにもぐり込んで、ひときわ温かいそこにそっと唇を押し当てる。 「もう一回したいのキス?」 「沙保がしたいだけでしょ」 「そう?おそろいだと思ったのに」  沙保はそう言うと薄く笑った。私はまた面白くなくなって、沙保の両頬をむにゅっと挟んで噛みつくようにして唇を奪った。  けれど、この唇が悪びれずにこんな風に言うのは、私が拒まないのを分かっているからだ。  こうなったらもう意地だった。唇を離して、私は沙保の目を睨んで言った。 「…そうよ、おそろい。だったら悪い?」  挑発したつもりが、そういう所かわいい、と沙保は口元をゆるめてぎゅっと私を抱きすくめた。そして、そのままごろんと転がって体勢を変えると、あっという間に私は沙保に見下ろされていた。  これはもう、この上なく面白くない。しゃくに障るから、せめて自分から欲しがってやる。そう思って、私は両腕を彼女の首に巻きつかせた。  見上げると、のんきに頬をゆるませている沙保とパチリと目が合う。何度も肌を重ねているのに、私を見つめる黒い瞳はいつだってとろけそうに甘い。 「ほんと、なんで飽きないのよ」 「なんの話?」 「…カレーのはなし」 「大好きだもん」  ぜんぶ分かってるよ、という顔でそう呟いたかと思うと、さっき私がしたのと同じように、首筋に沙保の唇が軽く触れた。  そういえば、いつもならしつこいくらい大好きとか愛してると言ってくるのに、今日は初めて聞いたかもしれない。それもまたキスの日だからなのか。  悪戯っぽく笑った顔をまぶたの奥に閉じこめて、私は肌を打つ柔らかなキスの雨に、もう一度身をゆだねた。  その後、運動した後の燈子さんのカレーは最高、なんてニヤニヤして言う沙保に、プリンの代わりに蹴りを食らわせたのは言うまでもない。
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