ヒナタの梅酒

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「梅酒作りません?」 大学の同期である女、楠(くすのき)ヒナタは不意にそんなことを言い出した。 手慰みにペンを回していた俺は、その唐突な提案に小声で応えた。 「急にどうしたんだお前」 ちょうど、授業を教室後方で俯瞰するのも飽きてきていたところだった。 「そろそろ梅雨じゃないっすか。 梅を漬けるには絶好の季節なんですよー」 「まあ、いいけど──密造酒扱いにはならないよな ?」 こういう思いつきで始めたことは、大抵ロクな結末にならないのは、18年の人生の間で身に染みていた。 確認しないと怖い。確認しても怖いが。 「ああ、そこはちゃんと調べてあるっす。 普通にグレー寄りのホワイトとかじゃなくて純然たるホワイトです」 「へぇー」 意外と抜かりがない。これなら心配は杞憂で済みそうだ。 「じゃあ帰りにスーパーに行きましょう」 「わかった」 そこで会話は途切れ、また授業をぼんやりと俯瞰することにした。
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