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一週間後…… 小説家の自宅に商品が届いた。 「お届け物でーす」 小説家はインターホンより配達員の姿を見る。だが、配達員の姿は見えない、インターホンのディスプレイ全体が何かで塞がれていて映らないのだ。 小説家は玄関を開けた瞬間に驚いた。枕一個が入っているにしては大きな箱、素材は発泡スチロールの巨大な箱。ズワイガニや新巻鮭を配達してくる箱の十倍近くはあるだろう。 「あの、重量ありますので…… 玄関に置いても宜しいでしょうか」 「ああ、土間で構わんよ」 筋骨隆々とした宅配便の配達員が「重い」の台詞を言うとは…… 一体何を送ってきたと言うのだ。小説家はそんなことを考えながら箱上面に貼り付けられた荷受け票に判子を押した。荷受け票がズレないようにその箱を上から押さえるのだが、箱の蓋に触っただけでひんやりとする。それに配達員が土間に下ろしただけで水の中に大量に入った氷と氷がぶつかり合う音がした。 小説家は配達員に尋ねた。 「きみきみ、これは何かね」 配達員は素直に荷受け票に書かれた商品名を読み上げる。 「枕…… と、なっておりますが」 そうとしか言いようがないか。小説家は配達員が去った後に発泡スチロールの箱を開けた。 「ののわっ!」 小説家は珍妙な声を出しながら尻もちを突いて驚いた。巨大な箱の中にはギッシリと水と氷が詰め込まれ、アジと思われる魚の残骸がプカプカと浮いていた。だが、そこは驚く問題ではない。問題はその中にいたものである。 「ギューアッ!」 そいつは嗄れた中年のおっさんの咳き込みのような咆哮を上げた。可愛げの無い泣き声を放つその主の姿は極めて可愛い。つるつるとした頭に、黒真珠をはめ込んだようなクリクリとした目、犬の鼻と似たようなトリュフを思わせる黒くゴツゴツとした鼻…… そもそも顔だけを見ればオマケ程度の小さな耳のついた犬と大差がない。前足はない…… が、前ヒレはある、前ヒレはスキューバダイビングの時につけるフィンを長くしたような形状である。尾にも同様の二股のヒレが付いている。体はツルっとしており、玄関照明のあまり強くない光を反射して全身を輝かせている。 以上のことから小説家は送られてきた物の正体を「アシカか? 耳があるからアシカだな?」アシカと判断した。 枕を注文したらアシカが届けられた。全く以て意味が分からない。500万円と言う値段もアシカの生体販売の値段と考えれば納得が行く。しかし、これワシントン条約に引っかかる代物じゃないのか? 小説家は直様に枕の業者に電話を掛けた。しかし……
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