霧の山道

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 一昨日の夕方、ふもとの国境の街ラオカイから、バイクタクシーで山を登ってきた時に見えた、山の斜面に広がる魅惑的なライステラスや、農耕の風景は一体どこへ消えてしまったのだろうか?その全ては今もこの霧の向う側で、静かに息を潜めているに違いないのだ。   僕は意味もなく、そのまま縦長のガラス窓を眺め続けた。  やがて、そこから放たれていた白く淡い光が網膜の上で滲み始め、窓に付いているはずの格子が見えなくなり、ホワイトアウトのような感覚で意識がまどろみ、再び眠りの中へ落ちていくかに思われた時、突然、僕の視覚に異変が起こった。  いつの間にか、縦長のガラス窓は、横転したバスのフロントガラスに変化していた。厳密に言えば、あの時すでに、そのガラスは蜘蛛の巣のようにひび割れて、外側の地面に飛び出しており、枠だけの状態だったのだ。
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