5人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ
「猫よりお前のが面白かったな。」
パソコンにかじりついていた晃は、ふと顔を上げて、相棒の方を振り返った。
相棒はというと、コーヒーを飲みながら、夜景をぼんやりと眺めていたところだ。長く伸ばした、艷やかな黒髪。薄化粧でも十分綺麗な顔立ち。細身ながらも、女らしい曲線を描いた体型。
まだ中学生だというのに、随分いい女になった。
「はぁ?いきなり何の話?」
「お前を拾った時の話。もう2年経つんだぜ。感慨深いだろ?」
イケメンスマイルを物ともせず、紗知はズバリと言い放つ。
「そんな話していないで、黙って課題やれ。大学受かったからって、適当に済ませるな。」
「冷たい奴だなぁ。つか、そんなもんとっくに終わってる。」
「はぁー。これだからインテリゴリラは、仕事が速くて嫌い。」
「お前俺をゴリラ呼びするの好きだな。」
再び夜景に目を戻す紗知。いつもより大人しい。
それもそうか。
今日、母親が長期外泊に文句を言ってきたのだ。紗知は、母親に今までの鬱憤を吐き出し、家出同然に俺のところに戻ってきた。
ほったらかしにしておいて、帰って来いか。親という存在は実に勝手である。
結局、今までと生活は変わらない。しかし、紗知は何を考えているのか。
まさか、親に辛く当たった事を後悔しているのか。親の元に、帰りたいと言い出すならば、俺はお前を許さない。
「勘違いしないで欲しいんだけど。」
「あぁ?」
「私は、あんたに拾われてやったんだから。母親も、私から捨てたの。あんたがつまらなくなったら、いつでも捨ててやるわ。その嫌いな目を潰してね。」
紗知は不敵に笑っている。
昔虐めてきた奴等に向けた表情と同じ物。それを俺にも、母親にも向けてくるのか。
自分のカラコンの目を、底の見えない闇だと言う。しかしそう言うこいつの目は、狂気に輝いている。闇の中でこそ、こいつは存在出来る。
(俺無しじゃ生きられないというのに、何て強気なんだ。)
「お前は、本当にいい女だな、紗知。」
俺に似て悪く、俺以上に可哀想で、まさに俺好みの女だ。こいつになら、後ろから刺されても悪くないとさえ思える。
そして俺は、忍ばせていた指輪を、紗知の前に差し出した。
最初のコメントを投稿しよう!