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護身術は覚えて損はない
丁度苛立っていたから、サンドバッグの存在は有り難かった。
だが、こんな事がまた起きてはいけない。ため息をつき、サンドバッグを投げ飛ばしてから、紗知に向き直る。
「俺もいつも一緒にはいてやれねぇんだから、この辺1人で通る時は気をつけろ。治安悪ぃからな。」
先程まで絡まれていたというのに、怯えていた様子が全く無い。
意外と肝が据わっている。しかし、それに力が伴っていない。厄介事に関わらないように、努めさせるべきなのだが。
「さっきみたいに、絡まれたらわからない。」
紗知は転がる少年達を見つめている。
「逃げるくらい出来ねぇか。…力無い癖に歯向かったり、巻き込まれに行くから、ボロボロになるんだろうが。」
初めて会った時の傷を思い出し、自然と顔を顰めた。
あれは、虐めから出来たらしい。
クラスメイトの、虐め現場に遭遇し、庇ったせいで標的にされている。紗知本人ではなく、ある筋から聞いた話だ。
「お前…暴力を説得で解決出来るなんて、馬鹿な考えはやめろ。それに多少の事なら正当防衛って認めて貰えるはずだ。学校でも、殴られたら1発返したって構わねぇよ。」
「…でも、アキは1発だけで過剰防衛みたいだね。」
確かに自分の1撃は、そこら辺の不良やチンピラには、重すぎるのだろう。
一通りの武術を、父親から直々に教わったし、それなりに場数を踏んでいる。
一応加減はしたが、自分と同い年の少年達は、地面にぐったりと伸びていた。
「…お前の細腕じゃ、ここまでやれねぇだろ。」
「うん、私ゴリラじゃないから無理。」
「俺もゴリラじゃねぇよ。」
…よく言われるが、とは言わない。
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