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春吉橋を渡る度、川端にずらりと並ぶ博多の名物屋台と、中洲と西中洲を隔てる那珂川の水面に揺れるネオンに、東京にはない情緒を感じる。雨の日じゃなくても、すぐ近くに迫る海からの風のせいか普段から湿っぽく、心に纏わり付くような情緒だ。
橋から中洲側を見ると、昔見たSF映画のワンシーンを思い出す。映画は近未来の筈なのに現代の世界よりももっとベタベタと人間臭い、派手な原色ネオンの雑多な街にザザザと叩きつけるような酸性雨が降っていた。──中洲の夜にも雨がよく似合う。
中洲の外れにポツポツ並ぶホテル街は、如何にも情欲にまみれたような風情で、どうぞ本能のまま御自由にとでも言うように夜の闇に佇んでいる。
ホテル街に入る薄暗い小道には近場にあるソープランドの呼び込みの男達が、手もみしながら行き交う酔客を品定めしている。そしてたまに通る所帯持ちらしきサラリーマンと水商売の女の二人連れを見ると、決まって馬鹿にしたような冷めた一瞥を送るのだ。私がやってる行為は確かに、こんな浮き草暮らしの呼び込みにさえ軽蔑されるような馬鹿げた不貞行為である。
やまない雨に追い込まれて私が命がらがら辿り着く先は出口の無い袋小路か。今は考えまい。辿り着く先がそこなら、それは安っぽいサスペンスドラマより程度の低いシナリオだ。何れにせよ仕方ない。雨はいつかやまなければならないのだ。
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