譲り合い

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知人の結婚式の二次会で事件は起きた。 居酒屋で見知らぬ男女の席に座り、ハイボールを飲んで、何気なく最後の一個の唐揚げを摘まもうとした時、 向かいに座る男の箸が伸びてきたのだ、 お互い目が合い 「どうぞ、」 「いえいえ、どうぞ」 と譲り合っていたが 気持ちは正直、そこまで固執してるわけでもないんだから、早く取れよ。と面倒臭い気持ちで一杯だった。 相手も、そんなような目で まずったな、何故唐揚げに箸を伸ばしたのだろうと自問自答を繰り返していた 「どうぞ」 「いえいえ、どうぞ」 周りは楽しそうな笑いの中、流れる不穏な空気 「じゃあ」 と、もういい、どうせ知らないヤツだしと箸を伸ばすと、相手もそのタイミングで箸が…… なんやねん! ひきつった笑いのなか 「どうぞ、」 「いえいえ、どうぞ」 またも繰り返される、不毛な譲り合い かなり、ウンザリしていた もういいだろ、食べろよ、この冷えた唐揚げを! 笑った私の目の奥では、その気持ちで一杯だった 相手も、なんだよ!早く摘まめよ、解放されたいんだよ! そんな気持ちが透けてみえる 誰でもいい、この唐揚げを取ってくれ 苦悶の表情をしていると 酔っ払った新郎である友人が、私の肩をつかみ 「よー飲んでるか?今日は来てくれてサンキューな」 と話かけてきた チャンスだ! この不毛な荒らいから逃れられる 私は天にも登る気持ちでいたが 「あれ?何、箸伸ばして固まってるんだよ、さっさと食べちまえよ」 お互い箸を伸ばしたまま固まる私たちに、そう言う 「いやあ…」 相手の男と愛想笑いしてると 友人の新郎は去っていった… 解決ならねー 私たちは悲しい目で見つめ合うと 「どうぞ、」 「いえいえ、どうぞ」 涙声で、また譲り合いをはじめた 数時間後……… 場がお開きになって、皆が帰るなか 「どうぞ、」 「いえいえ、どうぞ」 やまない雨はないと言うが……無限地獄に私たちは足を踏み入れてしまった。 おわり
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