「大丈夫ですか」

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ホームには乗車口に並ぶほど人がいた。 これがすべて乗っても、自宅の最寄り駅に到着する頃にはまばらに減ることが予想される。 ホームに冷たい風とともに電車が到着すると、雪乃は胸騒ぎのするまま乗り込んだ。 いつもよりも心臓が痛む。 最初は吊革を持って立っていたが、大きな駅で人が降りるとポツポツと席が空き始め、緊張状態のままとりあえず着席する。 車窓は異空間のような暗い世界。 雪乃にとって、真夜中の景色は夕方の暗さとは全く違う本物の暗闇だ。 目的地の数駅手前で、さらに人が降り。 雪乃のいる車両には七人の乗客しか残されておらず、ごっそりと集団が抜けたことでその七人が浮き彫りとなった。 ほとんどが中年のサラリーマン。 (あ……!) そのとき雪乃は、ちょうど対面の席に座っていた男性が “彼” であることに気づいた。 スーツの上にコートの、あの憧れの人である。 思わぬサプライズに、一瞬だけ恐怖が吹き飛ぶ。 彼は腕を組んで目を閉じ、鞄は腕の中、傘は脚の間に立てかけて、電車の揺れに身を任せていた。 帰りの電車で彼と出くわすのは初めてである。 彼が常にこの時間まで働いているのだとしたら、いつも夕方には帰宅している雪乃と電車が合わないことは当然だ。 遅くまで仕事を頑張る人。またそんな妄想をした。
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