「ここで抱かせて」

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「私は雪乃ちゃんだって分かったけど、他は誰も気付いてないと思う。もちろん誰にも言ってないよ。ていうか、言わない方がいい。嫉妬されて大変なことになるから」 皆子は人差し指を立ててアドバイスをしたが、当の雪乃には響いていない。 今の彼女にとって、自分に対する嫉妬など問題ではなかった。 それよりも、社内の女性にプライベートを知られることを極端に避けている晴久にとって、メッセージが出回っている状況の方が最低最悪の事態だと言える。 晴久に迷惑をかけている、雪乃はそのことで頭がいっぱいだった。 「皆子さん……これって、どこまで広まっているんですか……?」 「広報部と総務部の若手にはほとんど回ってると思う。繋がりが多いし」 「そんな……」 青い顔がさらに白くなり、唇はカタカタと震え出す。 皆子は「大丈夫だよ」と慰めるものの、別のところにある雪乃の不安が払拭されることはない。 「雪乃ちゃん?」 「……皆子さん。この写真を回している人がいたら、止めておいてもらえませんか。噂になっていることを晴久さんが知ったら……」 皆子は雪乃が“晴久さん”と言ったことに度肝を抜かれたが、依然として悪い顔色の方が心配になった。 崩れ落ちそうな雪乃の肩に手を置き、ポンポンと動かして慰める。 「分かった。止めとくよ。でも大丈夫だと思うよ、誰も高杉課長に直接聞ける勇気はないから。女だけの内輪で終わるんじゃないかな」 「……そうでしょうか……」 「そうだって! それより、ちゃんと馴れ初め聞かせてよね!」 雪乃は正直それどころではないが、明るく振る舞う皆子に合わせ、げっそりとした笑顔で頷いた。
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