「ここで抱かせて」

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◇◇◇ まだ夕方の六時過ぎだというのに、窓の外は真っ暗だった。 雪乃は定時で退社し、たどり着いた自宅に引きこもっていた。 先週から晴久の家に入り浸っていたせいで、荷造りのためだけに利用していた自宅は荒れている。 とりあえずそれを片付けると、整った部屋で、まだ黒いカーディガンのままソファに横になった。 床に置いてある荷物に手を突っ込み、携帯を取り出してみる。 『ごめんなさい。今日は会えません』 昼の晴久のメッセージにそう返信をしたのが、午後五時のこと。 既読が付いているものの、それに対する返事は来なかった。 『ちゃんと話そう』という彼のメッセージに、じわりと涙が滲み、視界が霞んでいく。 (終わっちゃうのかな……) 晴久に知られずに噂が風化してほしいと思っていた。 家に行き来していてはまた誰かに見られ、噂になるかもしれない。 過去のストーカー事件でトラウマがある晴久に噂になっていることが知られれば、やはり付き合いはやめよう、と切り出されるはず。 雪乃はそう考え、昨日から彼と距離を置いていた。 しかしもう知られてしまった以上、晴久と会い、意向を聞くべきなのに、別れを切り出されるかと思うと怖くてそれもできない。 晴久から逃げたままこの部屋に帰るしかなかった。
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