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──すると突然、頭上の電気が消えた。
頭上だけではない。席の上に一列に並んでいる車内灯は、車体の奥へ向かって次々に消えていく。
チチチと音を立てて全ての車内灯が消えると、車内が暗闇になった。
その瞬間、電車が大きく減速し始める。
(……な、にっ……!?)
雪乃は座ったまま、膝の上で鞄の紐を握りしめた。
一瞬だけ車内は窓の外の暗闇と同化し、電車は完全に停止する。
悲鳴を出しそうになったが、その前に出入口付近の予備電灯がぽっかりと点灯した。
人の輪郭だけがかすかに分かるくらいに薄暗く照らされる。
車輪の音、空調の音はいっさい消え去り、感じたことのない静寂だけがあたりを包んだ。
「……はっ……はっ……」
あまりの事態に雪乃は過呼吸に陥った。
周囲に悟られないよう手で口を押さえるが、代わりに鼻の呼吸がパニックで震え、肩やら腹筋やらがガタガタと揺れる。
『お知らせ致します。この電車は停電により一時停車しております。ただいま原因を調査中ですので、座ったままでお待ちください。なお、線路上は危険ですので、ドアの開閉、線路への降車はなさらないようお願いします』
(停電……!?)
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