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階段を上がってきた晴久はスーツのままだった。
ドアに背をつけて俯いていた雪乃の近くへ寄り、「雪乃」と声を掛けるが、彼女は返事をしない。
代わりに「どうぞ」と消え入りそうな声で呟き、ドアを開けた。
彼女の肩が震えているすぐに気付いた晴久は、玄関のドアが閉まるのを待ってから、もう一度「雪乃」と声をかける。
彼女はそれにピクリと前髪を揺らしただけで、振り向きもせず、カタカタと震えていた。
「……晴久さんの、話したいことって……何ですか?」
今にも泣きそうな声で尋ねる雪乃に胸が締め付けられた晴久は、鞄を床に置いた。
手を伸ばし、彼女を後ろから抱き締める。
「えっ……」
「俺はどんなことがあっても、別れるつもりはないから」
より密着する手のポジションを見つけた晴久はそこに力を込め、雪乃の頭に頬を付けた。
「……晴久さんっ、え、え……」
てっきり別れ話をされると思っていた雪乃には突然の出来事すぎて、体が素直に動かない。
力が入ったまま硬くなる雪乃。
彼女の硬直を溶かすように、晴久は耳元で「雪乃」と囁いた。
「……晴久さん……」
やがて雪乃が大人しくなったところで、晴久は彼女の体ごと、脚を折って座り込み、彼女をすっぽりと内側に収めた。
「もう会えないって言われて、心臓が止まるかと思ったよ。嫌われたのかと思って」
「まさか! そんなこと、あるわけないです……嫌われると思ったのは私の方です。あんな写真を撮られてしまって……」
「構わない。本当のことなんだから。むしろ見せつけてやればいい」
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