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ガラス戸を隔てて少し離れた場所にいる晴久は、混乱気味に雪乃を見つめていた。
どうして今日は素顔で来たのか。疑問が募る中、周囲の男たちはそんな晴久にかまわず騒いでいる。
「細川さんってあんな美人だったのか」
「なんで隠してたんだ?」
「ていうか、胸デケー」
さすがにカチンと来た晴久は大人げなく男たちを睨んだが、それでも、騒がれている本人である雪乃がギャラリーを全く気にしていない様子に、やがて彼の目は釘付けになった。
雪乃はガラス戸の内側のオフィスで皆子と話していた。
「めちゃくちゃ集まってるよ、雪乃ちゃん。男ってやーねー」
「いいんです。今まで不自然に隠していた私も悪いんですから」
雪乃は至って冷静で、皆子とともに朝の資料作りに取り組んでいる。
男たちの歓声を受けながらも、それは全く気にせずに手を動かしていた。
「でも、本当にいいの?」
「何がですか?」
「もうすぐ、他の皆が出勤してくるよ。岩瀬さんとかも。……写真が回ってる人には、高杉課長のツーショットの彼女が雪乃ちゃんだってバレちゃうじゃん」
「いいんです」
雪乃は手を止めずに、頷いた。
ふとガラス戸の方へ目をやると、そこには男たちの群れから一歩引いたところで心配そうにこちらを見ている晴久がいた。
雪乃は彼に微笑みかけるようにアイコンタクトをとり、目の前の皆子に答える。
「もう隠す必要ないんです。私の顔も、プライベートも。全部守ってくれる人ができたので」
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