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数分後、いつもの駅に到着した。
スーパーやコンビニの豊富な住宅地だが、この時間では外を歩く人は少なくなる。
電車を一歩降りたところまで男性は付き添ったものの、ふらつく足元でもきちんと地面に立てていることが確認できるとと、雪乃を支えていた手をパッと離した。
「ここからは帰れますか」
まだ浅い呼吸が続いていた雪乃だが、彼の問いに掠れた声で「はい」と返事をした。
この時間の夜道を歩いて帰ることは彼女にとって到底無理なことだが、東口を出ればタクシーの営業所がある。
それに乗ればなんとかなるだろう、自信はないものの、そう思うしかなかった。
「では、俺はこれで」
「……はい。ありがとうございました」
非日常だった電車内とは違い、あっけない会釈で終える。
眼鏡とマスクの彼はそれ以上何もなく、大きな歩幅で階段を降りていった。
雪乃も何もせず、静かに背中を見送るだけ。
かすかな寂しさに浸るが、ここから帰るという試練が残っているため気を強く持つ。
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