【コミカライズ】寵愛紳士 ～今夜、献身的なエリート上司に迫られる～

「大丈夫ですか」

それから、体感では数十分、実際には五分が過ぎた頃。

道路の続く先の暗闇から、なんと再び例の彼が現れた。

彼はなぜか、ロータリーに沿って駅へと戻ってくる。

雪乃は気付かずベンチで肩を震わせていたが、やがて足音に気付き、やつれきった顔を上げた。

「すみません、先ほどの方ですよね」

「え……」

「もしかしてその傘、 俺が電車に忘れたものでしょうか」

「あ、はい……」

「良かった。届けられてないかと思って一応戻ってきたんです。取っておいて下さりありがとうございました。……あの、まだ帰らないんですか？」

「……大丈夫です、もう少ししたら、タクシーで帰ります……」

「タクシー？」

男性はすでに何台か停まっているタクシーを見て眼鏡を曇らせながら、雪乃のそばへ寄った。

話しながら彼女の様子がおかしいことにすぐに気付いたのだ。

気付いたいうよりも、停電した電車での取り乱した様子がまだ続いているという予感。

男性は電車のときと同じく、雪乃の前に屈み、「大丈夫ですか」と声をかけた。