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「おはよう、雪乃ちゃん。今日も真っ黒だね」
そんな彼女のそばにやってきたのは、同じく総務部の三つ年上の社員、相葉皆子。
彼女は雪乃が親しくしている、姉御肌の先輩である。
「おはようございます皆子さん。今日早いんですね」
「そうなの。朝までにやらなきゃいけない仕事があったのに、忘れててさ。雪乃ちゃんと同じ時間に出勤するのなんて久しぶりだわ」
「私お手伝いしますよ」
雪乃は人懐こく笑ったが、せっかくの笑顔も、マスクつけたままではまるで変化が分からない。
それでも皆子は、彼女の申し出に素直に「ありがとう」と笑顔を返した。
過去にいたずらで雪乃の眼鏡とマスクを無理やり外したことのある皆子は、この会社で唯一、雪乃の素顔を知っているのだ。
「雪乃ちゃん。まだ人いないし、マスク取ってもいいんじゃない? 眼鏡曇っちゃってるよ」
営業部の社員へ配布する資料作りを二人で開始しながら、皆子が言った。
しかし雪乃は首を横に振る。
「着けてないと落ち着かないんです」
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