「大丈夫ですか」

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雪乃はもはや声だけでなく顎をガタガタ震わせながら、問いかけには消え入るように「すみません……」とだけ呟く。 男性はすぐに彼女の背中に手を添え、視線を合わせた。 「落ち着いてちゃんと息をしましょう。深呼吸できますか」 「深呼吸……」 「そうです。深く吸って、吐いて」 雪乃は背中を撫でられながら、男性の低い声に合わせて素直に深呼吸を始めた。 しばらくして呼吸は規則的なものへ戻り、不思議と視界もクリアになっていく。 「……治りました。すみません」 雪乃がそう言っても、彼は到底安心はできなかった。 別れて戻るまでの目を離したわずかな時間で彼女はこんなにも悪化したのだ。またいつ過呼吸になるか分からない。 彼はすぐに去ることはせず、隣に座り、まずは傘を受け取った。 「暗闇が苦手と言っていましたが。結構、大変な症状なんですね」 「はい……。夜道がもともと苦手なのですが、電車のショックでいつも以上に動けなくなってしまって……。本当に、情けないです。でも、おかげさまで治まってきたので、少し落ち着いてからタクシーに乗れそうです」 いやとても大丈夫には見えないと思った彼は、タクシーの営業所に目をやった。 そこまで付き添うことは簡単だが、弱っている彼女に運転手が親切な言葉をかけて労ってくれるとは限らない。 彼女が無事に家に帰れたかどうか、やはり自分の目で見届けたいという気持ちになった。
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