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同情をするとともに晴久は、雪乃が暗闇だけではなく、男性も苦手であることをこのとき彼女から初めて聞いた。
思い返せば彼女は乗客に近づけなかったり、タクシーに乗れなかったりと、いくつかヒントはあったのだ。
そしてすぐに、その苦手なものに晴久自身も当てはまっているということに気付く。
この状況は雪乃に無理強いをしてしまったと感じた晴久は、「すみません、知りませんでした」と謝罪し、さらに念のため、十センチほど彼女と距離をとった。
「あ、いえ、ごめんなさい! そんなつもりではなくて……」
「電車でもいきなり声をかけてしまって、迷惑ではありませんでしたか」
「まさか! 高杉さんのことは怖くないですから」
雪乃は顔を赤くして弁解する。
なぜ自分のことは怖くないのか、晴久はまずそっちを疑問に思ったが、それならとりあえず良かったと、尋ねることはしなかった。
「しかし、それでは日常生活が不便でしょう。暗闇と男性を避けて暮らすのは」
「そうですね……でも、今のところは何とかなっています。職場も総務の仕事なので接客はしていませんし、知っている人なら会話くらいは問題なくできますから。今日はたまたま残業で遅かっただけで、普段は六時には帰宅しています。こんなに遅くはなりません」
雪乃は眼鏡の奥で目尻を垂らしながらそう言った。
晴久は雪乃が過呼吸を起こしていた間は分からなかったが、彼女の声は女性らしく、聞いていて心地良いと感じた。
そこから彼女の、女性らしく繊細で、おっとりとしているだろう素顔を想像すると、それが美人かは関係なく好奇心が湧いてきた。
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