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不意打ちのお願いに、晴久はドキッと胸が鳴った。
ここまで真剣な面持ちで女性に連絡先を聞かれたのは初めてだったのだ。
そもそも、こんな出会い方をしたことも、誰かをここまで手助けした経験もなく、晴久も女性相手に別れが惜しいくらいの気分にはなるというもの。
連絡先を聞かれたタイミングも、彼女の勇気がじりじりと伝わってきた。
「すみません、もし駄目なら無理にとは……」
「いやっ、大丈夫ですっ。いいですよ、交換しましょう」
「いいんですか……!?」
雪乃は滅多に出さない最上級に明るい声を漏らし、嬉しさで目を三日月型に細めた。
晴久も携帯を取り出し、連絡先を交換する。
雪乃は携帯に映る晴久の番号を見ると、「嬉しい……」と無意識の喜びを呟き、再び目尻を垂らした。
素直な言葉と、移り変わる彼女の目元は可愛らしく、晴久は胸が疼いた。
「ありがとうございます。引き留めてすみませんでした」
「いえ。無事に帰ってこれて良かったですね。細川さんが部屋に入るまで一応ここにいますよ。寒いので、どうぞ入って」
二人は爽やかな気持ちで会釈をし、雪乃だけがエントランスに入っていく。
晴久は言ったとおりしばらく彼女を見ていた。
雪乃は階段を上り、扉の鍵を開けた後、下にいる晴久に手を振ってから、中へ入った。
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