「俺の家に来ませんか」

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晴久の自宅は雪乃のアパートから徒歩五分。 通り道と言いながら、途中大きく曲がって方向転換をした。 こちらは1LDKのデザイナーズマンションで、一階は駐車場になっている。 なんて立派な家、と雪乃は見上げながら口をあんぐりと開けた。 彼の職業については何も聞くことができずにいた雪乃だが、少なくとも自分より数段年収の高い人なのだろうと気付き、先ほどアパートを見られたことが恥ずかしくなる。 全てテンキー操作により解錠し、部屋のドアが開けられた。 「どうぞ」 晴久は真っ暗な玄関にすぐに電気をつけると、雪乃の背中に軽く触れ、先に中へ通した。 「お邪魔します……」 玄関からは数メートルの廊下、その先のリビングまでが見えている。 人並みに片付けられているが、リビングのテーブルにはビジネス書や雑誌が積まれ、仕事をする男の生活感があった。 初めての男性宅に戸惑う雪乃と同じく、実は晴久もそわそわと落ち着かなかった。 彼もこの部屋に女性を入れるのは初めてなのだ。 それに、今まで明るいところできちんと彼女を見てこなかったが、こうして近くで見ると眼鏡の奥の瞳はパッチリとしており、マスクの陰影でフェイスラインもシャープに見えた。 もしかしたら想像より可愛らしい顔をしているのでは、そんなことを考えた。
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