「俺の家に来ませんか」

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年収のこともしかり、このデザイナーズマンションもしかり。 正直、雪乃にとって、晴久の私生活は予想外だった。 常に眼鏡とマスク、コートで身を隠していることで、どこかで勝手に、彼は自分と似ているのではないかと思っていたのだ。 地味な生活で、外見にこだわりはなく、住む場所も安さ重視。 そんな彼を想像していたのだが、あのブランド物の傘を見たときから少し違うとは思い始めていた。 バスチェアがあったが、それには一度も座ることなく手短にシャワーを終える。 使ったものを整え、脱衣所でパジャマに着替えた。 急いで持ってきたパジャマはいつもの薄桃色の上下のもの。 前開きのボタンで留めるタイプで、うっすらと胸の形が浮き出るサイズ。 “しまった”と思い少し胸元を伸ばしたが、あの親切な晴久が自分の胸になど目はやらないだろう、そんな根拠もない信頼感を持ち、気にすることをやめた。 終わると、外から「洗面台にあるドライヤーを使ってください」と声がし、雪乃は「はい」返事をする。 身なりを整えた雪乃は、おそるおそるリビングへと戻った。
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