「俺の家に来ませんか」

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リビングでは、まだネクタイが取り払われただけのワイシャツ姿でいる晴久がソファに腰かけ、雪乃が出てくるのを待っていた。 眼鏡とマスクだけは外し、手ぐしで髪も崩している。 ソファの背にしている方向から脱衣所の扉が開く音がし、雪乃がこちらへやってきた。 「お待たせしました」 晴久は座ったまま振り向き、「大丈夫でしたか」と返事をしようとしたのだが、彼女の姿を見るやいなや「大丈、夫、でした、か……」と言葉が迷子になる。 雪乃も同様だ。 振り向いた晴久と目が合った途端、言葉を失っていた。 二人は見つめ合ったまま、動けなくなる。 先に正気に戻ったのは雪乃だった。 「だ、だ、大丈夫でしたっ、高杉さんも、どうぞっ」 体ごとソファから視線を外し、声を裏返しながらそう言った。 とても目を合わせられない。これが憧れだった駅の君の素顔。 整った目鼻立ちにどこか甘く色気のある雰囲気、すでに美化していた想像すら遥かに上回ってしまうほど、美形だった。 王子様のような彼の素顔を見た雪乃の心臓は、箱の中の動物のように暴れ始める。 晴久の方もろく彼女と目を合わせず、促されるまま「行ってきます」と立ち上がり、彼女とすれ違って逃げるように脱衣所へ向かった。
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