「連絡を取るのは控えましょう」

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◇◇◇ 雪乃はいつもより三十分遅い電車を降りると、定刻に余裕を持ってオフィスへ向かう。 まだ今朝の夢うつつな感覚が切り替えられずにいるが、晴久の連絡先の入った携帯の画面を見ると、心が弾んだ。 仕事で事務的な連絡をする以外にはほとんど男性の連絡先は持っていなかった雪乃にとって、これはとても特別なもの。 オフィスへ行く途中、いつも晴久が寄るカフェを通りかかる。 彼の定刻も同じ八時半だというのなら、もしかしたらまだいるかもしれない。 そんな雪乃の期待どおり、外から横目で観察するとガラス張りの店内に晴久がいた。 たった今、席を立とうとしている。 雪乃は彼から見えない距離を保ちつつ、歩く速度を落とす。 ストーカーまがいの行為ではないかと不安になるものの、もう一度話すチャンスがこんなにも早くやってきたことに嬉しさを隠せなかった。 マスクをずらしてコーヒーを飲み終えた晴久は、店内のゴミ箱にプラスチックごみを片付けると、カフェを出るほんの直前、ごく自然な動作で眼鏡とマスクを外した。 それを歩きながら鞄の中に仕舞い、素顔のビジネスマンになった彼は歩く速度を速めてカフェを離れていく。
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