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フロアに到着すると、雪乃は携帯とにらめっこを始める。
先ほど晴久と会社が同じであると判明して雪乃自身も驚いているが、会社の中でいきなり雪乃を目にした晴久の方が驚いているだろうと思い、ここで彼に連絡を入れた方がいいのではと考えたのだ。
初めて連絡をするきっかけにできる。するなら始業前にメッセージを送りたい、と。
メッセージは冒頭の『細川です』からなかなか先へ進まず、五文字ほど続きを作っては消しを繰り返した結果、当たり障りのない挨拶のみの文章が完成した。
『細川です。先ほどはビックリしてご挨拶できず、すみませんでした。同じ会社だったんですね』
思いきって送信した。
昼にでも返事が来たら嬉しい、そう思っていたが、晴久からの返事はすぐに来た。
『そのようですね』
素っ気なさを感じたものの、もしかしたら文面ではこういう人なのかもしれない、と勝手に納得する。
帰るときに手を握ってくれた晴久を思い出し、諦めずに新たな文面を作った。
『お仕事終わりでもいいので、是非今度、昨日のお礼がしたいです』
昨夜から勇気を出すことに慣れたのか、雪乃は躊躇なくそう送った。
なんなら今夜でもいい。
顔が熱くなるのを堪えながら返事を待った。
始業時間ギリギリにメッセージは返ってきた。
雪乃はそれを読んで凍りつく。
『昨日のことは気にしないで下さい。申し訳ないですがやはり連絡を取るのは控えましょう。会社内でも挨拶程度にしてもらえますか。いつでも呼んでいいと言いましたが、仕事が忙しいので難しいです。すみません』
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