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「課長、岩瀬さんでもナシなんですか?」
「誰でも、だ。社内でこういうことをする気はない。これだって受け取るつもりはなかったんだが、押し付けて行ってしまったから仕方なく持っているだけだ」
「勿体ないなぁ……。課長のそれって、まだあの事件のこと気にしているんですか? 五年くらい前でしたっけ、課長が社内の女につけ回されて家まで入られたってやつ」
軽く掘り返してきた小山に、晴久は眉をひそめた。
小山はさらに続ける。
「女が全員そんなことするわけじゃないんですから、付き合ってみたらいいのに」
カッと喉まで怒りが込み上げた晴久だが、この小山には全く悪気がないことは分かっており、腹を立てても仕方ないとため息をついた。
「……簡単に言うな」
五年前、晴久が女性社員につけ回された事件。
すでにその社員は退職していて社内では事件も風化しているが、晴久にとってはトラウマとして残っている。
それもあり、男性が苦手だという雪乃の気持ちもよく分かった。
睨まれて焦った小山は「ごめんなさーい!」とすり寄るが、晴久はほどよく無視をして歩き出す。
雪乃のことを思い出し、胸が痛くなった。
突き放すメッセージを送ったが、彼女からそれに対しての返事は来ない。
連絡するなと送ったのだから来なくて当然だが、どんな様子か気になって仕方がなかった。
傷付けてしまっただろうか。……晴久はそう思うも、彼女が社員だったという事実を知ると遠ざけなければという焦りを抱いたのだ。
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